訃報


 引きずられたサブマスター父親を見た鍛冶師はため息をついた。

「親父、仕事大丈夫?」

「お前のところに案内したし、あとは帰る。この嬢ちゃんが料理するためのナイフが欲しいんだと」

「戦闘用じゃなくて?」

 鍛冶師の言葉に吟遊詩人がこくりと頷いた。

「珍しい。俺が子供の頃一緒について回った俺には、武器を持たせて戦わせたのに」

 鍛冶師の言葉は、吟遊詩人が年を取らないような言い方だった。確かに、鍛冶師はフィアの父親よりも少し上くらいに見える。そして、それよりも吟遊詩人はずっと若い。

はハーフエルフだからね。年を取るのが遅い」

「……へぇ」

 初めて吟遊詩人のことを聞いたフィアだった。

「親父とも旅したことがあるんだっけ」

「昔の話だな」

 そんな話をしながらも、鍛冶師はフィアの手をはかっていた。

「嬢ちゃん、年齢は?」

「じ……十歳です」

 年齢は言いたくない。言えば驚かれるから。

「十か。……吟遊詩人、十八になったらまた連れてこれるか?」

「分からん」

「だよなぁ。紹介状を書いておくから、もし十八になってここに来れない場合は、この絵が描いてある鍛冶師のところに行くといい」

「?」

「今よりも大きくなっていた場合、作り直しが必要だからな。あふたーさーびすというやつだ」

 そんなものがあるとは知らなかった。村では子供用のナイフは、お下がりで渡されるものだ。


「てっきり十五になっているのだと思っていたが」

「母ちゃん譲りだと思います」

「そうか。だと、君の母親はどこ出身なのかある程度想像がつく」

 まさかの回答だった。

「おそらく、青の大陸出身だろうな」

「あおの、たいりく?」

「そう。ここは緑の大陸と呼ばれる。風の調子が良ければ船で三月。ここから一番近い外の大陸だ。

 行きたいか?」

「……わかりません」

「何なら、あの鍛冶師のところに少し世話になるといい。私は君の父親を見てくる」

「え?」

「そこまで幼いと思わなかった。流石に親の庇護下にあったほうがいい」

 その言葉にフィアは甘えたかった。


 それは叶わなかった。吟遊詩人が行く前に、ギルドで聞かされた話。


 逆上した村人が宿屋の親父を殺め、火をつけたと。村の殆どの住民が罪に問われているらしい。

「よく調べたな」

「山賊狩り隠ぺいが酷すぎた。調査が入ったんだが、初日調査日には生きていた。第二陣が行ったら宿屋が燃えていた。誰しもが疑うだろうが」

 村人は二度も調査に来るとは思わなかったようで、隠ぺいを施していなかった。それどころか「村長に従わなかったから、当然の報いだ」と口を揃えて言ったという。

「……阿呆か」

「そういうことだ。村の生き残りが狙うのは嬢ちゃんだけだ。まだ逆恨みされると悪い」

 急ぎ村に戻り、何か形見があれば持って来よう。そう吟遊詩人が思った時だった。

「あたしも、村に行きます」

 気丈にもフィアがそう言った。


 村へ馬車を使い鍛冶師も巻き込んで戻ることとなった。

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