賞金


 翌日、フィアに必要なものを買いがてら、町を歩いた。


 あの酒場は「歌さえなければ最高の店」と言わしめるようになってるという。


 落ちぶれたものだ、と吟遊詩人は思う。

 先代の頃から利用していた身としては、呆れて言葉にもならない。冒険者ギルドは裏口から入る。

「……あんたか」

 外で休憩してたサブマスターが、くいっと合図した。

「表から来いや」

「そうしたいのは山々だが、出来れば面倒な絡みややっかみは避けたくてね」

「ってぇことは、あの金をおろすのか?」

「いや、先日、オセルミで捕縛した賞金首の金だね」

「そっちかい。全額あんたのもんになってるよ」

 オセルミと聞いたフィアが、びくりとしていた。

「嬢ちゃんはオセルミあたりの人間か。……なるほどなぁ。あの村人が言っていた『攫われ人』は嬢ちゃんのことか」

「そこまで話が来ているのか?」

 ぺらりと羊皮紙をめくったサブマスターが、にやりと笑う。

「誰一人信じてねぇ、と言いたいところだが、お前さんをつぶしたい奴らはその話に乗ったよ」

「馬鹿もそこまでいるのか」

「オセルミ領であんたがしでかしたことが問題なんだろうよ。……領主を呪うとか、お前何なの?」

「失礼な。は呪っていない。呪い返しもやっていない」

「……お前はそうだろうよ。答えも分かりきってたけどよぉ」

 残り少ない髪が残る頭に、サブマスターは手をやった。


 賞金首の金は全額貰えた。それを見たフィアが、故郷のやらかしたことを悟るには十分すぎた。

「……あの人たちは」

「ん? 一応あんたを救うための依頼を出したが、金が記載されてねぇんだわ。親父が支払うってしか言わねぇそうだ。で、ギルド職員がその村に行ったら、親父は『娘は吟遊詩人様に託しました』で終わり。すると、あの村長、その親父は『娘の父親じゃねぇ! 別の奴が父親だ!』ってなっちまって、じゃあ誰だよ、って言われて答えられない。結局はそのまんまだ」

「??」

「つまり、攫われたお嬢さんを救い出せっていう依頼は、ギルドでは受けてねぇの。こいつと旅したかったら続けられるし、ここにいたいっつうんだったら、残ればいい」

「吟遊詩人様と行きます」

「そうかい」

 ぽん、と何かに印を押し、どこかに送り出していた。

「気をつけな。こいつは味方以上に敵が多い奴だ」

「……あなたは?」

「俺は敵でも味方でもねぇよ。こいつの味方なんざやってられんし、敵になるなんて御免だね」

「お前くらいだよ、そこまであっさり言うのは」

「俺だからだろうよ」

 ギルド職員が持ってきた金を検分して、吟遊詩人は袋にしまった。これだけあれば買い出しは余裕で出来る。

「さて、お前の息子のところに寄るとするか」

「何が要るんでい」

「私のナイフを研いでもらうのと、この子が使うナイフを購入しようかと」

「この嬢ちゃんに戦わせるつもりか!?」

「飯の用意だ。それ専用のナイフがあったほうがいいと言ったのはお前だろう」

「……先にそう言えや! お前さんの場合、嬢ちゃんに戦わせてもおかしくねぇんだよ!!」

「お前の息子であるまいし、そんなことはしない。一応この子の父親から『安全な場所に』連れていくよう頼まれているし」

「……そうかい」

 疲れた様子のサブマスターを引きずって、ギルドホールを出た。向かうは、サブマスターの息子が経営する鍛冶屋だ。

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