火の都「フラム」
ゆるりと二人旅すること、七日目の夜。
様々な知識をフィアに与えつつ、とある大きな都市にたどり着いた。
「……ここは?」
「火の都『フラム』だ」
鍛冶師が集まることから、いつの間にかつけられた名前であり、本当の名前は違う。だが、いつの間にやら「フラム」という名前が定着し、その地に住む者までもが、忘れてしまった。
「ナイフも研がないと、使えなくなるからね」
ついでなのでいくつか見繕ってナイフを買うつもりではあるが。ついでなので
「三日ほど」
「一部屋か、二部屋か」
「一部屋で」
「奥が空いてるよ」
宿屋の女将に金を渡し、鍵を貰う。フィアを連れてそのまま上がった。
「使いたい方を使えばいい」
「でも」
「私は
明日には色々と動いてもらわなくてはならない。久しぶりのベッドでゆっくり休みなさい、それだけ言って、吟遊詩人はリュートをもって部屋を出た。
行先はいつもの酒場だ。
「お、久しぶりじゃねぇか」
酒場の店主が吟遊詩人に声をかけて来た。
「早急に金が必要なのでね。何曲か歌わせてほしい」
「お前さんが金を必要とするとはぁ、なんか訳ありか?」
「そんなところだ」
大抵、この都市には七日程宿泊する。その間、酒場で歌うのは二日ほど。金は必要最低限でいいとのたまう吟遊詩人が、金欲しさに歌わせてくれと言うのは珍しいのだ。
ぽろん、ぽろん。
いつものようにリュートを奏でる。いきなり酒場にいる歌い手がやって来て、歌いだした。
あまりにも下手すぎる。
……歌が邪魔だ。吟遊詩人は初めてそんなことを思った。今まではそんな事すら気にせずに弾いていた。
歌は今回だけでいい。
店主に目配せすると、すまなそうに頭を下げた。
「なんだ、あの歌は。音が消えてしまったではないか」
それを言ったのは吟遊詩人ではなく、客で。歌い手は顔を真っ赤にして「己の歌が分からないのか」と叫んでいた。
「分からんな。いくら酔っ払い相手だからといってもこれはない」
酔っ払いであるにも関わらず、ここまで丁寧な態度をとるものの方が珍しいのだが。
「さて、私は帰るよ。これ以上弾いても金にならない」
すまない、と店主が金を渡してきた。いつもであれば、おひねりから場所代を店主に渡していた。それがあるからこそ、酒場も吟遊詩人に場所を貸すのだ。
いつもの十分の一にも満たない金を持って、吟遊詩人は酒場を出た。
「すまないが、食堂で曲は弾いても大丈夫か?」
宿屋の女将に訊ねると、苦笑していた。
「ガートの酒場ででも弾いてきたか? 吟遊詩人様。あそこは駄目だよ。どっから来たのか分からない変なウエイターが歌い手みたいにのさばっているからね」
そう言って女将が別の酒場を紹介してきた。
「悪いが、この町の酒場はあそこでしか弾かないと決めている」
「そりゃまぁ……難儀なことで。うちは弾く場所が無いからお断りだよ」
「そうか、残念だ」
冒険者ギルドに行けば、預けていた金をおろすことも出来る。別の町で弾けばいい。
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