箱の中にて

三年目の夏


俺たちのチームはいわゆる強豪だ。

今年度のチームが結成されてから不敗。

投手陣はよく投げ、打者陣はよく打った。

選手層は厚く、選ばれるのはたったの十八人。


今年は、その十八人があまりにも優秀すぎた。

これまでに取られた点は、公式非公式関わらず合わせても二桁に届かず、

これまでに取った点は、公式記録だけでも合わせて三桁にゆうに超える。


だが、今回だけは違った。

俺たちの最終試合。甲子園決勝の九回裏二死。

プロでも通用するだろう直球と、まさに七色の変化球。

独特なフォームから繰り出される球持ちの良い投球。


我ら絶対強者でさえ、一つの安打を出すことも叶わなかった。


守備が卓越しているわけでも、打撃が止められないわけでも、機動力があるわけでもない。野球は九人で行うチームプレーという常識を簡単に壊してくる異分子がただそこにあっただけだ。

単体の力があまりにも強大。本物の怪物が我らを飲み込んでいた。


九番打者を任されたとはいえ、こんな場面に出くわすとは思っても見なかった。

打席に立ち、見えるはずもない白球を目で追っていたら、追い込まれていた。


振らなければ当たらない。


当たり前のことを当たり前にさせなくさせる脅威。

震えが止まらなくなってしまう。

最後だという緊張が、ここにきて爆発していた。


思えば、なんでこんなにも苦しい思いをしていたのか。

野球とは、勝って然るべきものだと思い込んでしまっていた。

数百人をも超える大集団の中で力を誇示していた。

だが、所詮は井の中の蛙。これまで積み立てたものは脆くも崩れ去り、今ここで無意味であったと宣告させられている。


本当に無意味だったのか?


答えはわからない。

本当に意味なんてなかったのか、それとも、これから見つけていくのか。


……どうでもいい


最後は潔く全力で振り切ろう。

後悔なんて、残さないように。


すると、先は拓けた。


_________


吹っ切れたら、世界がシンプルに見えた。

あるはずの歓声はあまり聞こえなくなっていた。

練習での、素直な振り抜き方をスッと思い出せる。

ここには俺と怪物がいるだけ。


思った瞬間。


怪物の顔がやけに鮮明に見えた。

あぁ、あいつでも汗をかくのか、とか

あいつも俺を見ているな、とか

他愛のないことばっかりだが、気にかかることがあった


目に靄がかかっていたのだ。

まるで、さっきまでの…

_________


怪物はこれまでよりも大きく振りかぶって右腕を唸らせる。

その球は今までの中でも最も鋭く、最もノビのある球だったが、はっきりと見えた。


カアァン


今までになく、綺麗に振り抜いたバットはあまりにも手応えのない音を上げていたが、


白球はどこまでも、どこまでも

高く上がっていった。



そして、怪物は地に堕ちた。



一歩誤っていれば、

その丘に立っていたのは私だったかもしれない。


鐘は、三年目の夏の終わりを告げていた。

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