九回裏
タッカー
丘の上にて
三年目の夏
今日も今日とて暑い
フライパンの上で焼かれているみたいな暑さだ
子供の頃からずっと思ってたけど、
こんな暑さの中でも必死こいて球を投げては打たれて、僕だったらとてもじゃないけど耐えられない
でも、実際立ってしまったものはしょうがない
みんなから期待されて、
地元の期待の星だとか、プロ入り確実とか、超高校級とか、王子とか
色々言われたけど、結局のところ何もしっくりこなかった
全部、僕ではない誰かを見ているようで、ふわふわしてた
親や先生に反対するのもめんどくさかったし、ちょっと頑張れば友達に期待をさせることもできた
でも、それだけだった。
僕にとっての命綱。
何よりも心もとない、ほそい糸。
思い出につながる、導火線。
でも、もうすぐ終わる
最初は必死になっていたけど
最後の試合が十数回も続いて
だんだんふわふわ浮き始めて
気づいたら本当に最後になってて
後戻りはできなくなった
もうすぐ終わる
投げに投げたこの白球
この小さな丘に立った人は
どんな気持ちで投げていたのだろう
もう終わる
歓声はここにきて最高に盛り上がる
まだ勝負はついてないのに
僕の名前が大きく聞こえる
終わらせる
最後の最後、たった一球
おおきくふりかぶって、僕は投げた
手から離れた瞬間に
あんなにうるさかった歓声はいつのまにか、すぅっと消えて
世界は色を失っていって
五角形だけがやけにくっきり見えた
あんなに輝いていた白球は見えなくなって
歪んだ
覚えている中で最後に見たのは、
十七年間、踏みたくてたまらなくて
憧れの世界に入ってみたくて
ずっと手に入れたいとつよく願っていた
ただの土だった。
その後、白球には触っていない
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