僕の嫁は人を愛せない

にくきゅう

第1話 

僕の嫁は、人を愛せない。愛せないというか、愛という感情が正しくは理解できないのだ。そんな彼女が、世界で唯一、僕を愛してくれた。いや、正しくは選んでくれた。


僕と彼女の出会いは、よくある学生時代の出会い。初めて出会った彼女は水色のストライプ柄のワンピースを着ていて、物静かで清楚で優しい印象だった。新歓コンパの幹事を勤めていたのが彼女だ。幹事だけあって、飲み物の注文から料理の注文、酔った人間の介抱まで彼女が真面目にしていた。かくいう僕も、お酒に酔って介抱された人間の一人だった。この時はまだ、僕は本当の彼女を知らない。彼女が僕のことを嫌いになっていたことも。『ゲロ野郎』なんて酷いアダ名を付けられていたことも。


彼女はとにかく誤解されやすい性格だった。彼女が悪いわけではないのに、どう巡り巡ったのか、最終的には彼女の責任になっていたり、そんなことはザラにあった。けれど、彼女は知らないフリなのか、気にしていないのか、いつも涼しい顔をしていた。一度だって悲しい顔や悔しい顔、辛い顔を見せたことはない。それが余計に周りを刺激していたのだけれど。


僕たちが結婚したのは、僕が23歳で彼女が24歳の時。正直に言うと、新歓コンパで一目見た時から彼女に惹かれていた。一目惚れとは違う。彼女の声が忘れられなかった。凛としたハリのある透き通るようなソプラノの声。新歓コンパの時にカラオケで歌っていたハナミズキが忘れらなかった。今考えると人を愛するという感情がわからないのに『ハナミズキ』を歌っていた彼女には感情が全くこもっていなかったのに、僕はいたく感動してしまったのだ。彼女にとっては、その時はやりで自分が音程を保って歌える歌なら、なんでも良かったのだ。その中でたまたま選曲されたのが、『ハナミズキ』だっただけ。けれど、今だにカラオケに行くと僕のためにこの歌を歌ってくれる。その度に、勝手に僕は愛を感じるのだ。


彼女の中で、僕の存在が大きくなるのは意外に早かった。彼女には同級生の親しい男子が居た。彼の名は、古谷肇こたにはじめくん。後に、古谷くんが僕と彼女の共通の友人、キューピッド役になる。

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僕の嫁は人を愛せない にくきゅう @niku-Q

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