この作品は日帰りファンタジーコンテストに投稿されているようです。
そもそも、日帰りファンタジーとは、なんなのか。
コンテストの募集要項によれば、
「現代日本での生活の合間に、ファンタジーなキャラクターや能力が忍び込む話、現代日本と中世風ファンタジー世界を往復するような話……「行ったきり」にならず、現代での日々が続くことを便宜的に「日帰り」に喩えてみました。」
とのこと。
つまり、二つの世界を行き来するという点がポイントのようです。
なおかつ、今回は二万字までと定められていますので、必然的に短編になります。
ファンタジーと短編というのは、単純に考えると親和性はよくありません。なぜなら、ファンタジーとは、重厚な設定のもとに描かれるのが基本的な前提となるため、世界観の説明に文字数を取られた結果、物語の本質に切り込む文字数が不足する、なんてことになりかねないからです。
では、どうすれば短編でファンタジーが描けるのか。
そのひとつの答えがこの小説にはあります。
それは『説明部分をお約束で流すこと』です。
トラックで異世界に転生することにもはや説明は要りません。
異世界にオークがいることに疑問を持つ人はいません。
それはひとつの「お約束」だからです。
それ故に「お約束」で物語を作れば、説明に使う文字数を減らすことができるのです。
ただし、もちろん、問題もあります。
「お約束」に説明は不要ですが、逆に言えば、ベタな話をするだけで終わってしまい、オリジナリティのない量産型のお話の一つになってしまう危険性を秘めています。これは誰しも考える問題だと思います。
では、「お約束」に頼りながら面白い作品を書くにはどうすればいいのか。その答えの一つがこの作品にはあります。
それは「お約束」を茶化してギャグにすることです。
あるいはメタ的な視点に立つと言ってもよいかもしれません。
たとえば、トラックによる異世界転生をしたあと、現代日本に残された死体はどうなるのか……。想像したことがあるでしょうか。
異世界の文明レベルがなぜ日本の水準に比べて低いのか。考えたことはあるでしょうか。
この作品はそういった「お約束」の盲点に鋭く切り込んでいます。
では、そういった観点に立てば、誰でも面白いお話が書けるかといえば、答えはノーであると思います。
なぜなら、「お約束」に切り込むということは、ある意味で「お約束」に対立することとも考えられるからです。
たとえば、異世界転生ものの物語に本気でいれこんでいる人は、ある意味で馬鹿にされていると考える可能性もあるということです。
だからこそ、こういうメタ的な視点に立つ物語には、言語センス、独自の視点、何よりもギャグのキレが求められます。読み手を笑わせてしまえば、それは書き手の勝利なのです。
私も似たような作品を投稿していますが、ギャグというのは非常に難しいものです。見た目の破天荒さに反して、ギャグは非常に繊細なものなのです。
この作品は、その扱いが難しいギャグを、見事にコントロールしています。
面白く、笑いを誘う。だが、決して嫌みではない。
このさじ加減ができている作品がいつたいどれだけあるでしょうか。
作者のセンスには感服します。
私もこの作品を見習って、精進していきたいと思います。