第7話 入学式前日
学校に着いた高志達は寮の管理人に1年生の寮部屋へ案内された。
入学式は明日に行われる。今日は荷物の整理や同級生の顔合わせのための日だ。
これは時差ボケを出来るだけ出ないようにする配慮なんだとか。
寮は大きな塔になっていて、その2階部分が1年生の部屋になっているようだ。
寮といっても個室が与えられるわけではなくて、大部屋での共同生活だ。男子部屋と女子部屋、そして両方の部屋を繋いでいる談話室がこれから高志達1年生が暮らす家になる。
部屋の中には人数分のベットとタンスが用意されていた。
3段ベットが2組置かれている。今まで敷布団だった高志にとってベットは憧れであり、これだけで高志のテンションは急上昇する。
「僕、上のベットが良いなぁ」
「早いもの勝ちだろ? さっさと場所取りしちまおうぜ!」
高志とオルガスが目を輝かせてベットの梯子に手を掛けようとするが、それは寮の管理人によって止められた。
「こらこら、自分の名前が書いてあるベットを使うようにな」
そう言われた高志達はしぶしぶ自分のベットを探す事になるのだった。
残念な事に高志は1段目のベットらしい。
少し落ち込んだ高志だったが、ベットにある備え付けの小さな照明や隅にある小物入れを見てそんな気持ちは吹っ飛んでいく。
ベットはカーテンで囲うことが出来るようになっており、ちょっとした秘密基地の様だ。
(考えてみれば3段目のベットなんて上り下りが大変なだけだよね)
高志はそう考えてクスリと笑った。
・・・
高志達1年生組が全員集まったのは高志が部屋についてから約6時間後だった。
高志を含めた男子9人、女子11人の合計20人がこれから一緒に学んでいく同級生になるようだ。
「案外少ないんだな」
そう言ったのはオルガスだ。確かに世界中の国々から集めたにしては少ない気がする。
あの入学試験の合格者しか入学できないならまだしも、親が魔法使いで試験を免除された子供だっているはずなのに。
「それだけ魔法の才能がある人が少ないんじゃないの?」
ファイがそうクッキーを頬張りながら言う。
家で作ってきたというクッキーは不格好ながら美味しそうな匂いを放っていた。余りにも美味しそうなので高志も1つ貰う。
「おいしい!」
「あら、ありがと。遠慮なく食べてね!」
バターが効いていて美味しい。これが手作りとは衝撃だ。
高志はもう3枚ほど貰ってポケットに入れた。後でゆっくり食べる為だ。
「親が魔法使いでも、才能がない人には入学通知が来ないと聞くわ。魔力が少なすぎる子とかね」
「そうなのか。じゃあ、俺らはエリートってことだな!」
オルガスはファイの説明に満足げだ。
高志もそれを聞いてまんざらでもない気持ちになる。誰だって才能があると言われれば嬉しいものだ。
「素材が良くても努力しないと腐るわよ?」
「……わかってるよ。うるせぇな」
まぁ、その後のファイのツッコミで浮かれた気分は直ぐに消沈してしまうのだが。
一通り自己紹介を終えた後は各自で自由に過ごすことになった。
ほとんどの人は談話室で過ごすようだがそうじゃない人もいるようだ。
「なぁ、暇だし学校を探検しにいかないか?」
「いいね。僕も探検したかったんだよね」
オルガスに誘われた高志は二つ返事で頷いた。
高志も暇だったのでこの誘いはありがたかったのだ。
1人では心細くて探検なんてできないが、誰かと一緒なら大丈夫な気がしたから。
「私も一緒に行っていい?」
「もちろん!」
「探検は多いほうが楽しいからな! 一緒に行こうぜ!」
ファイも探検の仲間に加わって高志達は意気揚々と外に出た。
残念ながら校舎は立ち入り禁止だったので出鼻をくじかれる形になったが、ブラブラするだけでも楽しいものだ。
「実は森の方が気になってるのよね」
目的もなくブラブラしていたらファイが森に行ってみたいと言い出した。
ファイの言っている森とは馬車での移動時に通ってきた森の事だろう。
エルヴァン魔法学校の周囲は山々に囲まれていて、その中には森や湖がある。
森までは歩いて30分くらいの距離だし、行けない事もないだろう。
基本は実習で使われる場所なのだが、立ち入りを禁止されている訳でもないので高志達でも入る事は出来るはずだ。
「僕も森に行ってみたいかな」
「そうだな。ここにいてもやること無さそうだし行ってみるか」
3人の意見が一致したので高志達は森に向かう事にした。
森の中には危険な幻獣や魔物もいるのだが、それを高志達は知らない――
高志とエルヴァン魔法学校 トカゲ @iguana
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