1年生はグリフォンと共に

第6話 馬車と友達


 時間が過ぎるのは早いもので、高志がエルヴァス魔法学校に入学する日がやってきた。


 家のリビングには公民館で見たのと同じ扉が現れている。この扉を通れば次に家に帰れるのは1週間後だ。


 寮生活という事を入学試験の時は深く考えていなかった高志だったが、1週間に1度しか家に帰れないという事がどういう事なのか、寮生活とは何なのかを太郎と清美に教えられてからは、学校生活が不安になってしまっていた。


 助けてくれる両親は向こうに居ない。

 知らない人しかいない場所でやっていけるのか? 

 高志はここ数日はそんな事ばかり考えていた。


 「同じ部屋になった子とは仲良くするのよ?」

 「国が違えば文化も違うだろうし喧嘩もするかもしれないが、その人を嫌いになっちゃいけないぞ? 助け合っていくんだ」


 不安な事は他にもある。

 それは高志と同じ日本人が同学年では居ないことだ。

 言葉の壁は言語魔法があれば大丈夫だけど、同郷の人間が一人も居ないのは寂しいものがある。


 「やっぱり行きたくないかも」


 ポツリと高志の口から不安が漏れた。

 しかし、これはもうどうしようもない。通うはずだった小学校には別の学校に通うと連絡してしまっている。今更やっぱり通わせてくださいという訳にはいかないだろう。


 「高志は魔法を覚えたいんだろう? なら頑張らなくちゃ」

 「あんなに行きたがってたじゃない。どうしたの?」


 「だって、あっちは知らない人しかいないし……」

 「大丈夫だよ。言葉は通じるんだ。直ぐに友達ができるさ」


 太朗はそう言って高志の頭を撫でた。

 試験の時に天才扱いされてたし、もしかしたら妬まれていじめられる可能性もあるが、高志は親から見ても天然で親しみやすい性格をしてる。

 最初は妬まれたとしても友達は直ぐにできるだろうと太郎は考えていた。


 「まずは1週間頑張ってみなさい。なに、日曜日には帰ってこれるんだし、無理そうならその時にお父さんに言えば良い」

 「うん……わかった」


 渋々だが高志は太郎の説得でリビングに現れた扉を開くのだった。


・・・


 扉の先は周囲を木々で囲まれた湖だった。


 エルヴァン魔法学校は外敵が来た時に備えて転移不可の結界が張られている為に、どこかしらの中継地点を通らないと行く事ができないようになっている。直接転移が出来るのはエルヴァン校長くらいなものらしい。


 少し離れた所に人が沢山いるのが見える。

 そこは乗合所のようだ。荷馬車が何台も並んでいるのが見えた。


 「……馬かな?」


 高志は馬を見るのも初めてだったが、それでも分かるくらいに目の前の馬は大きく、そして背中には翼が生えていた。


 「知らなかった。馬って羽が生えてるんだ」

 「いやいやいや。あれは馬じゃなくてペガサスだよ」


 振り向くと高志の後ろにはドレッドヘアが目立つ黒人の少年がいた。

 背は高志よりもかなり高く、筋肉質な事もあって中々雰囲気のある少年だ。

 高志は彼を見た事があった。うろ覚えだが試験の時にいた記憶がある。


 「お前も新入生だろ? 説明会とか試験にもいたもんな」

 「う、うん。キミもそうだよね」

 「おう。オルガス・スターグだ。オルガスでいいぜ」

 「僕は加藤 高志だよ。よろしく」

 「これからは一緒に学んでいくんだし、仲良くしようぜタカシ!」

 「うん! よろしくね、オルガス!」


 ドレッドヘアに黒い肌、筋肉質で高身長のオルガスは低身長に丸坊主の高志とは正反対のような少年だったが、話してみると明るくて高志ととても気が合った。


 「そろそろ馬車に乗ろうぜ。遅くなったら次の馬車がまで待たないといけないだろうしよ」


 高志はオルガスと一緒に急いで馬車の荷台に乗りこんだ。荷台の中はバスの座席の様に椅子が備え付けられていて、すでに乗っていた人たちが前の方で談笑している。


 「あら、もしかしてアナタも新入生?」


 高志が席に座ろうとすると、前の方にいた少女が声をかけてきた。

 燃えるように赤いポニーテールと勝気なツリ目が印象的な少女だ。


 「そうだよ。キミもなの? 説明会では見なかった気がするけど」

 「私は両親が魔法使いだから試験はパスできたのよ。魔力制御と言語魔法はもう使えるから」

 「へぇー。じゃあ沢山魔法も知ってるんだろうね。凄いなぁ」

 「そんな事はないわよ。パパから教えてもらえたのは魔力制御と言語魔法だけだし、あなたたちと変わらないわ」


 彼女はそう言うと気まずそうに頬を搔いた。

 何でも彼女はあまり要領が良くないらしく、言語魔法も最近になって漸く覚える事ができたそうだ。


 「ここで会ったのも何かの縁だし、良かったら友達になってくれないかしら? 私はせっかくなら楽しい学校生活を送りたいのよね」

 「うん。僕なら喜んで!僕は加藤 高志っていうんだ。こっちはオルガスだよ」

 「オルガス・スターグだ。よろしく」

 「私はファイ・アンダーソンよ。ファイって呼んでね!」


 ファイの嬉しそうな笑顔を見て高志とオルガスは顔を赤らめるのだった。

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