ボタン、あるいはスイッチ
肌黒眼鏡
第1話
あなたの目の前にはボタンがある。
それは四角でも、丸でも、星形でも構わない。あるいはそれは直線かもしれないし、曲がりくねった線のような形かもしれない。もしかしたら万華鏡のように形を変えているのかも。
あなたの目の前には、妙な形のボタンがある。
色も何色でも良い。赤でも青でも、あるいは透明でも。
そのボタンは出っ張っているかもしれないし、凹んでいるかもしれない。あるいは平面でタッチパネルになっているのかもしれない。形は問わず、色も問わない。
ただあなたの目の前には、何かしらのボタンとおぼしき妙な形の何かがある。
何かしらのボタンとおぼしき妙な形の何かの周囲には、危険と書いてあるのかもしれないし、DANGERと書いてあるのかもしれない。もしかしたら押すと幸せになれると書いてあるかもしれないし、電光板のように開運の文字が光っては流れているかもしれないし、あるいは何も書いてないかもしれない。
やはり、あなたの目の前には、危なそうな何かしらのボタンとおぼしき妙な形の何かがある。
あなたはそれを押してみる。
何も起きない。どうやら危険でもDANGERでもなかったようだ。かといって開運も実感できない。
もしかしたらあなたの気がつかないどこかで銃が発砲されているのかもしれないし、ミサイルが発射されているのかもしれないが、あなたがそれを知る術はない。
あるいは、それはあなたの身に何かが起きた結果それを忘れただけかもしれないし、もしかしたらあなたのPCを初期化しているのかもしれない。あなたが宝くじを買っているのならば当選しているかもしれないが、当たっても1万が関の山だろう。
あなたはそれを、もう一度押してみる。
やはり何も起きない。どこかで轟音が響き、空気を揺らしたような気がするが、おそらくは気のせいだ。この部屋の中には何もない。まっさらな空間しか存在しないのだから。
ここであなたは違和感を抱くかもしれない。もしかしたらただそれを受け入れるかもしれないが、それはそれでいい。
しかし、この空間にはなにもない? 本当に?
ならばあなたの押した妙な形のボタンのような何かはどこへ行ったのだろうか。
当然その行方を知る由はあなたにはないし、この文章を書いたわたしにもわからない。なぜわたしにもわからないのかはわからないが、もしかしたら考えていないだけかもしれないし、忘れているだけかもしれない。
もしかしたらこれは壮大な伏線かもしれないが、それはありえないと否定しておく。
もしかしたら、妙な形のボタンのような何かを押したことにより妙な形のボタンのような何かが消えたのかもしれないし、透明になったのかもしれない。
あるいは、妙な形のボタンのような何かを押したことによりこの文章が自動的に生成されたのかもしれないが、結局それはあなたには関係の無い、どうでも良いことだ。
ならばボタンを押すことに意味は無く、文字を読むことも同様に意味は無い。
そして、私にも関係のないことだ。なぜならボタンを押したのはあなたであって、ボタンの形を決定したのもあなただからだ。
ならば、一体あなたは何をしていたのだろう。まるであなたにはわからないし、わたしにも当然わからない。
ただ時間が過ぎたことだけが事実かもしれないが、もしかしたらそれは、妙な形のボタンのような何かを押したことにより未来に飛んだだけなのかもしれない。
あるいは、それは本当に何も起きないかもしれないが、それはわたしの希望的観測に過ぎない。あなたの知らないわたしの世界では何かが起きているかもしれないし、わたしの知らないあなたの世界では何も起きていないかもしれないからだ。
あなたの目の前にはボタンがあるかもしれないが、それを押すことはお勧めしない。
それを押してもおそらく何も起きないとは思うが、もしかしたら未来に飛ぶことがあるかもしれないし、あるいは過去に戻ることも同様にありうるかもしれないからだ。
ボタン、あるいはスイッチ 肌黒眼鏡 @hadaguromegane
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます