第10話 生存者

地震から1ヶ月程経った。


ユイはラジオを聞きながら難無く生き延びていた。

『今日は雨が凄かったね。』

『まさか近くの川に食料が流れて来てるだなんて、誰も思わないよね。』

『昨日夜野良犬大丈夫だった?怖かったね。』

『可愛い服を見つけて良かったね。』


全てが1日後の事。ユイはその日その時間に行って、同じ行動をする等、ラジオから流れる情報を基に行動していた。危険も回避できた。

ワザと自分に教えてくれている様な感じもした。


「よし、これで良いか」

ラジオの情報を聞いて、自分好みの服まで調達できた。


「いくつか持って行こう。着替えもいるし。」


肩からラジオを下げ、もう片方には赤いビニール製の鞄と、どこかで拾ったのか、リュックも手に入れた。壊れたホームセンターに行き工具を使い、ラジオに革製の紐を付けたのだ。以前に出会った知子の真似をしたかった。


「そういえば…ともちゃんは元気にしてるかな。」


たまに両親の事を想い泣く事もあったが、他人の事を想う余裕も出てきた。


今は自分のパーソナリティに会うと言う目的を持ち、ひたすらその場所に向かっている。時折アンテナを伸ばして方角も確認している。


間違い無くゴールには近付いているはずと信じていた。


『今日は…ザザ…ザザザ…』


「ん?アンテナの方向が悪いのかな」


『ザーザー…』


ユイは思った。アンテナの方向は間違いでは無い。

また近くにリスナーが来ている事に気付いた。


「……誰かいるの?」


そう言ってキョロキョロと辺りを見回した。


いつも賑やかなショッピングモールの中は今は薄暗くシーンと静けさがある、

別世界の様だった。冷たい空気が流れていた。


そう言えばラジオは昨日何か言っていただろうか?

放送ではリスナーとの接触についての話題は無かった。


「おかしいな…」


そう呟き、すっと後ろを見ると1人の男性が立っていた。


「や、やぁ。」

右手を上げ、それは明らかに引きつった笑顔だった


一瞬ビクッとなったが、すぐに落ち着いた様子で

「……あ、こ、こんにちは」

ユイは頭を下げ、ゆっくり会釈をした。


「あ、僕は高山サトルです。」


男はボロボロのスーツ姿だった、見た目は若かった

まだ20代前半だろうか?とても爽やかな雰囲気の青年だった。

片手にはビジネス鞄を持っている。


「えっとあ、私はユイって言います」

(さすがにフルネーム教えるのはマズイな…)

ユイなりの危険予知だった。


「あ、いやぁ生きている人にいきなり会えたから僕ビックリしちゃった」

ゆっくり男は近付いて来た。


ユイはグッと拳を握り、肩を強ばめながら男をじっと見た。


「あ、近付かない方が…良い?かな?へへへ…あ、いやぁ、ごめん。」


「…良いよ。大丈夫。ユイもビックリしたから」

続けてユイはすぐさま聞いた。

「サトルさんは、リスナーなの?」


一瞬時間が止まった気がした。


「い、いや違うよ、てか、リスナーって何?」

「ラジオ聞いてる?終わりラジオ」

「いや、聞いてないよ?それってネットで話題になってたやつかな?」


ユイはふぅっとため息をした。


「そっか、何でもないから大丈夫」


ユイはふと思い、こっそり自分のラジオの電源を入れた。


『………』

雑音は無かった。


(この人は本当にリスナーじゃない)

リスナーなら何か情報が聞けると期待していたが、違うと確信した途端

肩の力が抜けた。


「あ、カロリーメイト、食う?」


男はポケットからカロリーメイトを出して一緒に食べようとジェスチャーをした。


「うん。食べる」


2人は崩れた瓦礫の上に腰を降ろし

終始無言でカロリーメイトを食べた。




「…君は凄いね、小さいのに1人でここまで来たの?本当に凄いよ。」

「う、うん、まぁ。」


予言ラジオの事は言わない方が良いのかユイは迷っていた。


「サトルさんもずっと1人でいたの?」

「うん、色々と歩き回ったけど、誰もいなかった。だから1人」


「へぇ…そうなんだ」


年上だろうがもうタメ口で話している事がユイは気にならなかった。

2人は互いにどんな事があったのか話した。地震から今までの事。


「そう言えば、あの地震の日、何か周りが真っ白になったじゃん?」

「わ、私も見た。あれ何だったのかな?」


「あれは多分フラッシュだと思う。僕は見たんだ…」


その後、サトル口からはユイが全く想像していなかった事が語られた

予想と全く違った真実が…





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おわりラジオ ヒノヒカリ @hinonokeitai

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