少女の願い

散音杈

少女の願い


 ねえ、知ってる?

 夕暮れ時の空は、ただ赤いだけじゃないってこと。


 赤みを増した空は、いつしか赤から黄色へ、黄色から緑へ、緑から青へ、青から紫へ、紫から深い黒へと、まるで虹のように姿を変えていくの。


 いったいどれくらいの人たちが、そのことに気づいているのかしらね。


 そうやって少しずつ変化していく空を見たとき、ああ、すごいなって、心から感じたわ。


 とても素敵だった。




 ねえ、知ってる?

 夕陽の赤が、ただの赤じゃないってこと。


 見る時間、角度、位置、何かが一つでも違うだけで、橙色だったり、黄色っぽかったり、白色に見えることだってあるの。


 夕陽はとても綺麗。

 だって、夕陽の周りは儚げな輝きに溢れていて、まるで黄金おうごんのベールをかぶせたみたいじゃない?


 その淡い光が、私たちに希望を与えてくれているような気がするの。

 今だって、ほら。

 瞳を閉じれば、温かなあの色が目の前を覆い尽くして、私を優しく包んでくれる。




 ねえ、知ってる?

 命は、とても儚いものだってこと。


 冷えた心を溶かしてくれたあの笑顔も、私のそばで寄り添っていてくれた貴方という存在も、あっけなくこの世から消えてしまう。


 例えるなら、そう。夕陽と同じ。

 夕暮れ時の空には確かにそこにあるのに、時が経って、夜になると跡形もなく消えてしまう。

 最初から、何もなかったみたいに。


 私は、自分の命を失うことが怖い。

 でも、誰かの命が失われてしまうのは、もっと怖い。



 だけどね、私、知ってるの。

 そんな儚いものたちに憧れている自分がいるってこと。

 あの日見た夕暮れ時の空も、地平線に沈みゆく夕陽も、貴方の笑顔も。

 その全てに救われたから。



 独りぼっちだった私の、心のり所。



 私に勇気をくれた貴方は、もうこの世にはいないけれど、まだ貴方の願いは終わってない。


『誰かの希望の光でありたい』


 そんな存在に、私はなりたい。

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少女の願い 散音杈 @sara-chirune

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