3. サックス 小河原みどり
トランペットという呼び方でなく、ラッパという呼び方なら、耳にした人は多いだろう。私も、最初に耳にしたのはその呼び方だった。
音楽教室で、習い始める楽器を決めるときのことだった。何となく、ピアノを弾いていた先生に惹かれて、ピアノに決めた。
1年もしない内に、鍵盤を見ずに音を言い当てられるようになった。その時に付けた耳コピ癖が元で、しばらく楽譜を読む習慣はなくなって、たまに見たとしても、発表会で弾く曲を決めるときぐらいだった。
楽譜を読む必要性を痛感したのは、サックスを始めるときだった。
楽譜にドと書いてある音が、ミ♭としか聞こえない。先輩に聞いても、それはドの音だと言う答えが帰ってくるばかりだった。
ミ♭、ファ、ソ、ラ♭、シ♭、ド、レ、ミ♭。
テナーも鳴らせたけど、そっちはシ♭で始まる音階だった。
聞くと、チューニングの時は、どっちもシ♭(だと思っていた音)を使うという。
たぶんこの感覚は一生付きまとう。そう直感して、鳴らしやすかったアルトを始めることにした。
音楽の授業でアルトリコーダーを使っていて、指で押さえる音と聞こえる音との違いが感覚として分かっていたのが幸いだった。チューニングの時はソの指使いだったけど、耳で音程を聞く分にはシ♭と聞こえていても問題ない。譜面の音と実際に聞こえてくる音が食い違うのは、譜面に音を書きこむことでごまかした。
1年も経つと、さすがに音の書き込みは消えてて、いつの間にかテナーの楽譜も読めるようになっていた。
そうして、他パートの楽譜も「読める」ようになるまでは、そう時間はかからなかった。
高校に入って、思わぬ弊害があった。アルトサックス以外の指回しに対応できていなかったのだ。
中学で楽譜の読み方を調べているときにドイツ音名は覚えざるをえなかったし、パート間で話は通じる。ただ、仮入部期間中にクラリネットでつまづくと、他の木管にも怖くなって手が出せなかった。
その点金管は、時間をかければまだ音と指を対応させられそうだったけど、結局アルトサックスの枠が空いていたので入れてもらうことにした。
ラッパとか金管を見ていてすごいと思うのは、運指として使えるものの少なさだ。
1,2番ピストンの同時押しと3番ピストンが実質同じ役割で音程の補正とかしか違わないことを考えると、7通り。チューバとかの4本ピストンの楽器でも、4番はほぼ単独で使うので、せいぜい10通り以下だという。
私たちがオクターブキーも使うド、ソ、↑ド、↑ミ、↑ソ、↑シ♭、↑↑ドの動きを同じ運指で口だけ変えるとか、ラッパとトロンボーンで時々ある、同じ運指に見せかけてスライド管の位置で音程を変えている音とか、見せてもらっても信じられないことが多かった。シンプルな構造には裏がある。
舞台の上では、ラッパと同じ動きをしていることが多くて、たまに一緒にソロ・ソリを吹いたりする。
サックスが負けててどうする。そう言い聞かせて、ラッパの子と自分を比較してつい弱気になったときも頑張ってこられた。笑顔にならなくちゃ。
「休憩もうすぐ終わるよー、劇メン急いで着替えて」
第3部、ポップスステージ。劇には出なかったけど、後輩にソロは譲らなかった。
ある意味コンクールより緊張しながら、私はホールの熱い照明に一歩踏み出した。
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「ラッパ―トは、お調子者って言われることもあるけど、北咲ブラスのエース集団。
立てばメロディ座れば合いの手、ホールのあちこちに花を咲かせます。
聞けば幸せになるその音で、メロメロになること間違いなし!」
by. Saxパートリーダー Asax 小河原みどり
パート紹介は回想とともに 某チャリ野郎 @CyclerBCY
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