2. クラリネット 田原元綺香

 低音パート。

 音楽室の入口近くに楽器を置いているのでどうしても日々目にはするけど、合奏ではなかなか耳にする機会はない。いや音自体は聞こえてるけど、もはや部屋の蛍光灯に近い感覚とでも言うべきか、「あるのが当たり前」に、どうしてもなってしまう。

 吹いていないときは気付く、でも普段からそちらに耳を傾ける余裕はない。


 薄情なものだ。バスクラの子が低音パートにいるけど、彼女、山辺麻衣は元々オーボエだったのを無理にバスクラに入ってもらったので、練習上の接点はほぼない。市内にバスクラを持っている中学はほとんどないので、パート内でのバスクラの認識は「クラリネットの形と音色でやたら低い音域を吹いてる何か」だった。

 クラリネットアンサンブルでもすればまた話は違ったかも知れないけど、あいにく1学年上の先輩方が「コンクールで十分な成績を出せていないのにアンサンブルまで手を回せない」と言ってアンコンに出ないと結論を出したばかりだった。


 低音パートはそれ以外にも、

 「吹奏楽の中で特に変な人が集まるパート」

 「あまり積極的な理由で選ぶ人がいない」

 等々色々言われていた。

 例えば同級生でチューバの男子なんかは、中学でチューバを始めたのも、高校で1年間トロンボーンを吹いてから戻ってきたのも人数不足のためだったし、元々軽音楽部に入ろうとしていた女子なんかは、ベースを含めた弦楽器の経験者がいないからという理由で始めた弦バスで、今は副部長兼パートリーダーをしている。

 その点バリサクの子は自分から始めて高校でもたまたま続けられたという事らしいけど、コンクールの課題曲では容赦なく他の低音楽器と同じような動きに当てはめられてしまうそのパート、不満はあったりしないんだろうかと、何回か思わなくもなかった。


「結局チューバが体質に1番合ってた。譜読みしやすいし、逆にユーフォとかは軽すぎて頼りなくなった」

「弦で指先を傷めることもあるけど、曲が分かって合奏してると楽しい。たまにベース弾けるし」

「サックスを続けられたことが何より。ソロもあるし、テナーとかアルトは小さい」

…まあ、本人たちは積極的に続けたいみたいだし、これ以上外野が突っ込むことでもないか。

 それに、チューニングの時もそうだけど、息継ぎしてるにしても、譜面上では休みなくずっと吹(弾)いていられるのは、本当にすごいと思う。コンミスを抱えるパートとしては、尊敬するばかりだ。

 私ももっと練習して、この人たちの音を聞きたい。だって合奏中に当てられたとき、他のどのパートよりも堂々と吹いてて、すごくいい音出してるから。


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「低音パートは普段から個性豊か。楽器の種類も楽譜の動きも違うけど、一致団結!

縁の下の力持ちなんて言わせない。ホールの空気、壁、柱、その辺いっぱい、音で埋め尽くします。

楽器が大きくてもスタンドプレーをこなす、そんな元気なパートに注目して下さいね」

by. Clパートリーダー 田原本綺香

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