旅立ちの前に
宇宙船アルミナは、テセウスに向けて救難信号を飛ばす。そしてエイとビイが乗り込む調査船に、3日分の食料や水、空気の循環設備を担う燃料を載せる。
「燃料不足の中で、調査船に速度を期待する方法は?」
エイがビイに尋ねると、ビイは言う。
「アルミナの推進機関を借りる。小型で軽量だから、アルミナそのものを動かすよりずっと経済的。でも」
ビイの言葉の続きをエイが言う。
「推進機関に対して、調査船の強度が足りないかも」
2人の頭の中に、宇宙空間で瓦解する、調査船の様子が浮かんだ。黙り込んだ2人に、パルがすかさず確認する。
『この船に留まるという選択は、できないのですか?』
パルの問いかけに、エイとビイは互いの顔を見合わせ、ふふっと笑った。
「もし、僕たちがこの船に留まって生きることを望んだら、パルは始めに何を考える?」
今度はパルが黙った。エイは言う。
「いいんだよ。パルは、パルの良いと思うことをやるだけだって、知ってるから。だけど今回は、嫌なんだ。もし、僕たちがこの船を発ったら、カルが、パルにとっての唯一の人類になる。パルは、カルを殺せない。一度下した判断を変えるとしたら、パルにはそういう状況が必要だと思った」
ビイは、すまなさそうな顔をして、パルに告げる。
「ごめんね、パル。パルのこと、否定したいわけじゃないの。パルのことをおいていくのは、本当はすごく辛いし、心細い。でも、ずっとこのまま、何でもパルに甘えていたら、ダメなの。カルは言ったわ。私たちって、優秀じゃないって」
パルは答える。
「カルが言ったのですか。カルの言う基準を、私はもう、正しいとは思っていません。そんな理由で命を危うくするなら、私は、あなたたちを止めなくてはいけない」
ビイは困惑して言う。
「違うの。それだけじゃないの、私は!」
エイが、話に割って入る。
「パル。僕たちは最後にちゃんと、パルのことを知っておきたい。パルはいま、僕たちの意思を尊重してくれようとしている。それは何故? 船が出発してから250年。人類のことをパルは、信じてないよね。教えてくれた歴史はどれも、パルがそうなった理由を説明してくれる。僕たちに対して例外的な対応を取るのは、テセウスが、パルを否定したから? それが全部の理由?」
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