Ⅳ. Decision

どうして?


 エイとビイは管制室に戻り、船内設備の復旧具合、燃料、空調などを調べた。そして船内エリアの内、パルの遺伝子バンク、保管庫はおろか、ゆりかごまでが、すでにエネルギー供給の対象外になっていることを知る。


 ビイは言った。


「これは本当に現実なの? パルは、私たちを生かすために、こうしたの?」


 エイは、答えようとして閊えた喉に手をやり、首を振る。


「僕たちが生きようとするのは、パルの意思じゃない。難民という形でも、生き延びようと望んだ、人類の意思のためだ。それが本当の目的で、今もそうだ」


 エイの放った言葉は強かったが、その眼の光は揺れていた。ビイは言う。


「でも私たちは、地球にかつて住んでいた人類と、同じじゃない。長い船旅、重力が変動する宇宙空間にも耐性を持ち、何より受け入れ先のテセウスの生態に同化するため、”改良“を加えられたサンプルのうちの一つ。パルが教えてくれたように、このアルミナの上で重ねられた250年の月日のうち、船員が誰一人、存在しない時期があった。


 パルは、人類が旅の目的を見失わないために造りだしたAI。だからパルは、その目的を実現するための要として、機能してきた。過程はたぶん、間違いなんてなかった。でも、その結論だけが『誤り』ということはない? 起きたことは戻らないし、死んでしまった人もそう。けれど私は、納得できない。なぜパルは」


 ビイはその先の言葉を、形に出来ない。それでも、確かに言うべきことはあるのだと、エイに訴える。エイは言った。


「とりあえず、何か食べよう」


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