Not a Parent
エイが代わりに応える。
「僕たちは、パルをAIとして、船内生活における友として、大事に想っています。パルは初めから、そういう風に自分を紹介したのです」
ビイも、エイの言葉に同意する。
「そうよ。パルは友達。かけがえのない友達。使命の為に、私たちを育てた。私たちは、それに応えたいと思うだけ」
怯えを振り切り、はっきりと言い返す2人を前に、カルは、その碧色の目を剥いた。
「そのお優しいお友達は、俺に言ったのさ。二人が無事に育つなら、俺はもう用済みだと。俺だけじゃない。保管庫に眠る先代、先々代のサンプル個体も、ゆりかごで目覚めを待つ子どもたちもみな、”要らない”と。目的地はすぐそこだ。テセウスが示した条件に見合うものしか受け入れられないなら、それ以外は必要ないと、パルは判断した」
カルの言葉に、2人は揃って首を振る。
「そんなはずはない。ゆりかごにも保管庫にも、たくさん眠っていた。僕たちは見たんだ」
エイの反論を、カルは鼻で笑う。
「本当に、ちゃんと、生きているのを見たのか? 生体反応は? 身体がそこにあるのを生きているとは言わない」
カルの言葉に、エイは言い返せない。遠目に視認した程度、保管庫に至っては、『パルがそう言ったから』というだけ。カルは、エイの表情に満足して、言葉を継いだ。
「俺は全部、止めたかったさ。でも、相手はパルだ。パルの判断は、即時実行される。俺は手当たり次第、船内をぶっ壊し始めた。パルの死角を作って、生存ラインを確保して、俺は長期戦に備えた。パルは用無しの俺を、遅かれ早かれ、殺しに来るだろう。
俺の反抗が始まってすぐ、パルが子どもを、ゆりかごから出した。俺はパルの情報系をハッキングして、どんだけ優秀な個体かと、お前たちを見てたよ。ちょうどいい暇つぶしだったしな」
「それで? それで、どうだったの?」
ビイが、強い不安にかられてそう言うと、カルは目を伏せ、嫌な笑みを浮かべた。
「とんだ劣等種だな。俺たちも同じものを受けたが、パルの課した知力、身体力の試験において、どれも半分以下の評定。一体パルは何を楽しく観察してんだか。俺には全く理解できないね」
カルは、嘘を言っているわけでは無かった。あまりに正直なだけだった。エイもビイも、パルから、告げられたことの無い ”試験” の評価を、こんな密航者から知らされるとは、思いもしない。ただ、カルの言ったことは、2人の胸を大きく支配した。
パルによって、価値が無いとされた、遺伝的父親、そしてかつての人類。パルは、ただ合理的に、みずからの仕事をしているだけなのだと、理解はできる。
しかし自分たちは、パルの基準に依れば、人類の持てる能力値の平均か、それ以下しか持ち合わせていないらしいこと。ただ、カルナという女性の貢献により生み出された、ということを除いては、パルの関心の的になるような条件が、他に思いつかないこと。
エイとビイは、言葉こそ交わしはしなかったが、今、互いの胸中を占めている考えを、知ることが出来た。2人は揃って、密航者カルを静かに見つめた。ビイが口火を切る。
「パルはあなたを殺すように言ったけど、私たちは結局、あなたと話を望んだ。その結果知ってしまったことは、あまりに多いわ」
エイも頷いて言った。
「思い出すまでもなく、現在船は、危機的状況にある。出来ることなら、壊した本人から情報を得たかったけれど、無理そうだ。ビイ、ちょっと2人だけで話をしよう。お腹もすいたし、何か食べられるものがあるか、調べないと」
「そうね。ちゃんと調べないと」
2人は椅子から立ち上がり、仲良く手をつないで部屋を出ていく。
カルはここぞとばかりに、拘束を解こうとしたが、無駄に終わった。パルがその様子を、じっと天井から見守る。
エイとビイに任せた "解答" を、パルは待っていた。
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