New Born


 再び、エイとビイ、そしてカルが向き合う展望室へ、時間が戻る。


「カルナとパルのやりとりは、後で知ったんですか?」


 エイが尋ねると、カルはひねくれた笑みを浮かべて頷いた。


「まあな。俺が部屋を出て、ひとり考えているときに、カルナはもう、意思を固めていた。パルがそうさせたんだ。要するに時間が無かった。生体出産には、少なくとも7カ月は要する」


 話をじっと聞いていたビイは、ふと疑問を感じて尋ねる。


「カルナさんはどこへ行ったの? パルは、あなたしか発見しなかった。それに出産は? 成功しなかったのよね」


 ビイは、当て推量でそう言ったのでは無かった。現に、この船にいるのは3人だけだと、パルが告げている。


 

 ビイの言葉に、エイはふと、或る可能性を思いつく。それは、目の前のカルを見て、また、ビイの様子を見ていて、至った答えだった。



「パルのライブラリで、読んだことがあるんだ。自然生殖による親子関係にある人類は、身体的な類似性が見られると。ビイの眼の色と形が、カルにとても良く似ている。もしかしてビイは、カルの子どもなのか?」


 そう言って、隣に座るビイの目を、じっと見つめるエイを、ビイもまた、強い瞳で見つめ返す。そういうことなら、エイの鼻の形だって、カルとそっくりである。


 2人の無言のやりとりに、ふうと、ため息一つで割って入ると、カルは言った。


「生体出産による子ども。それが俺たちと、どれだけ違うものか、と思ったが、なんてことは無い。カルナが、自分の命と引き換えに産んだのは、2人の小さな嬰児。呼吸しなかったその2人を、パルは、すぐさま自分のゆりかごへ連れて行った。俺はずっと見てた。カルナが苦しみ、さいごに運命を受け容れた、7カ月間、ずっとだ。


 パルは赤ん坊を蘇生させた後、案の定、養育するよう、言ってきた。だが俺は言ってやった。『俺はパルの”申し子”で、そんな俺が育てるのと、パル自身が育てるのと、いったい何が違うんだ?』ってな。俺は、見定める必要があったんだ。カルナの命と釣り合うだけの価値が、その子どもに在るのかどうか」


 カルの暗い瞳を前に、エイとビイは、静かに互いの肩を寄せ合った。カルは続けた。


「4カ月だ。パルは4カ月で、嬰児を8歳児まで成長させた。勿論、お得意の睡眠学習も施してる。それでも、その成長スピードは異様だった。パル自身が驚き、興奮していた。二人の存在に夢中になり、俺の呼びかけにも反応しなくなった。


 カルナもいなくなり、俺は一人なのに、パルまで俺を軽視する。そもそも、俺の存在意義は何だ? パル、お前の大好きな新人類の父親は、この俺だ。産んだのはカルナで、お前はいったい、他に何をしたっていうんだ」


 カルは、今のパルに呼びかけるように、そう言った。



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