正体探し
だがそのビイの腕を、エイが押さえるように下げさせる。ビイは驚いてエイを見る。
「何をするの?早く殺さないと」
ビイの主張は、もっともだった。だが、エイは顔を顰めて言った。
「もし、パルの故障が、この男によるものなら、直すことも出来るかもしれない。それに、この男の口にしている言語が、地球の言語だということも、いま調べて分かった」
エイは耳の後ろに掛かっていた、小さな情報端末を外して、ビイの左耳に掛ける。それを介すと、男の言葉が、自動翻訳されて聞こえたのだ。
男はこう言っていた。
「俺を早く解放しろ。パルからの自由を!パルからの自立! 俺は、お前たちの旧世代にあたる、新造人類、カルだ。分からないのか、俺の言葉を、お前たちはもう、理解できないのか!」
ビイは、目を丸くして言った。
「ほんとだわ、ちゃんとしゃべってる。でも理解できないなんて、失礼なこと言うのね」
納得した様子のビイから、また端末を受け取り、エイは耳に掛け直す。
密航者に向けて、エイが言った。
「お前は、旧世代だと言ったが、旧世代の人類は、パルの保管庫に眠るもの以外、船内に生きて存在しているはずがない。お前はどこから来たんだ?」
エイの発した言葉は、耳の端末を介して、地球語に翻訳され、男に伝わった。男はようやくか、という顔をして、ニイッと不気味な笑みを浮かべると、その白い髪を振り乱して言った。
「パルのゆりかごから、俺は目覚めた。カルナという相棒も一緒だった。だが2年前、受け入れ先の惑星テセウスから、突然、難民受け入れの条件が変更になったというメッセージを、パルが受信した。
受信時のズレを解析すれば、テセウスまでの距離と方向が分かる。当時の計測で、到着まで3年と2カ月。俺たちが最後の人類になるはずだった。なのに」
男の言葉を追えないビイの視線が痛い。エイは、そんなビイをじっと見返しつつ、この話をビイに聞かせるべきか悩んだ。
「分かった。お前がそこまで言うなら、事実と認めてもいい。パルは、条件に合わせて最後の人類を取り換えた。僕たちの知る限り、パルのゆりかごには、幾つものペアが睡眠学習を受けながら、眠っている。
一度目覚めた者も、パルによって、”条件を満たしている” と判断されれば、保管庫に永久冬眠という形で、生体保存される。でも、そうではない場合も、当然存在する」
エイの話の筋で、ビイも、目の前の男の正体を理解する。
「なんだ。パルに『欠品』判定された個体が、隠れて生きてたってわけ?」
ビイが何を言ったかは、言葉を解せなくとも、その表情で男にも伝わる。
男は、動かせない腕を、無理やり枷から引き抜こうとして、強烈な電気刺激を受けていた。
「ぐっ、お嬢ちゃん。あんた、パルのラボから出て、何日だ? どうせ大して経っていないだろう?」
ビイの代わりにエイが応える。
「2週間だ。ただし、身体機能と成熟度は8年と4カ月。でも、そんなことはこの際、関係ない。僕たちはいつでも、お前を殺すことができる。こちらには武器もあるし、パルの指示もある。
でも僕はその前に、お前の話を聞こうと思う。テセウスまでの距離も含めて、パルの故障のことも、お前しか知らないことがあるようだ」
ビイは、ひどく嫌そうな顔をしたが、運搬ロボットが男を楽々、担ぎ上げるのを見ると、観念したようにエイに言った。
「どうなっても知らないから」
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