新たなシステム

 第一世代、すなわち、難民としてアルミナに乗り込んだ、”高齢の” エンジニアたちによって、パルと同格の、「グル」という治安システムが創出されたのだ。それは何より、パルの生み出した子供たちの、暴力的傾向を懸念してのものだった。


 パルの厳格な選別により、生み出された第二世代の子どもたちは、顔形は違えど、言語的、身体的反応パターンが、まるで判を押したように似通っていた。そして、まるでこの狭い船内のみに適応した生き物のように、パルとしか、心を通わすことが無かった。


そのため、同様にパルの影響下にある人間とは会話しても、そうではない者たちに対しては、無関心、ときには『ルール無用』と言った横暴な態度と、露骨な暴力を示した。


 

 船員の命と、種の保存のために用意されたAIが予想できなかったのは、自身に対する人間の「愛着」と、それにもとづく「正義」観念の醸成がもたらすものであった。


 パルを親として育った人間にとっては、パルを単なる教育AIとみなす人間とは、価値観の相違があるように感じた。またもし、人間の教育方法に誤りがあるとすれば、それはAIそのものの不備だとして、工学的修正を加えようとする意見に対しても、強い拒絶を示したのだ。



 然るべくして、船内で一大紛争が起こる。


 それは人間同士の争いであり、「パル」と「グル」との、人間に対する管理能力をめぐる、覇権争いであった。


 パルが最初に行ったのは、人類の生殖細胞の冷凍バンクを、船体システムから隔離しつつ保全するということであり、彼にとってはそれが最重要課題であった。

 一方、グルが最初に企図したのは、『パルからの自立』を謳い、船内の人間の20%を戦闘要員として確保することであり、またそれによって、力による統治と、競争の活性化を促すことに在った。



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