じいデレラ
ノケモノ
第一話 ワカガエール
「やったぞ、とうとう完成した・・・・・・」
ろうそくの明かりだけが頼りの薄暗い地下室で、今まさに悲願が達成されようとしていた。
『若返り』の研究に着手してからはや三十年、当然のことながら失敗も数多く重ねてきた。
試作段階での予期せぬ爆発、パワーパフなんたらの誕生、STEP細胞はありません、などなど挙げ出したらきりがない。
ご近所の田所さん(69)には「古希にもなって何してるのよ、早く土葬されなさいな」と、心配される始末・・・・・・あれ、心配されとるのかい、これ?
「とにかく、その苦労もここまでだ。これを使えば・・・・・・そうだ、名前をつけねば」
試験管に入ったエメラルドグリーンの液体は、今か今かと輝きを放っている。
そうだなあ、若返りの薬だからなあ、うむ・・・・・・。
「若返り・・・わかがえる・・・・・・ワカガエールだ!」
頭に電気でも走ったかのように、それが浮かんだから違いない、違いないったら違いない。名前が決まったところで、いよいよ仕上げといこうか。
「うし、じゃあ飲むか・・・・・・っ」
そして、大きな深呼吸をしてから一気に飲み干す。
「・・・・・・なにも、ない?」
体を見てみるが、これといった変化はなく、いつもの枯れ木のような手と、ところどころ穴の開いた白衣しかない。
「失敗、なのか・・・・・・うっ!」
そう諦めかけた瞬間、今度は体に電流が走る。
「ぬぉ、ぬおおお・・・・・・ぬおおおぉぉぉ!!」
なんだ、この感覚は!? これが世に言う、舌の上で絡み合うハーモニーなのか(錯乱)。 「あ、あああぁぁぁ、イっちゃう。爺さんだから昇天しちゃうのぉ・・・・・・アー!!!」
あまりにも強すぎる衝撃に、わしはその場に倒れてしまう。
頬には冷たい床の感触が伝い、その熱をほどよく冷ましてくれる。
やっとの思いで立ち上がると、体がいつにも増して重く感じた。
でも動かしづらいかと聞かれると、そうでもない、むしろ軽やかに感じる。
「これはもしや・・・・・・ええい、論より証拠だ、証拠!」
期待に胸躍らせながら、上から僅かに差し込んでくる光のもとへと、はしごを伝いのぼる。 のぼっている途中で自分の手がまっしろな肌になっていると気がついた時、期待は確信へと変わった。
本やなんやらで散らかった畳部屋を横目に、そのまま洗面台へと直行。
そして―――
「こ、これは・・・・・・成功だ、成功、大成功だっ!!」
鏡に映し出されたのは萎れたりんごなどではなく、淡い茶っこい髪、大きな黒い瞳、少しばかり上向いた鼻、ふっくらした頬と唇・・・・・・まごうことなき、わしの若い頃と同じ顔つきだ。
「あ、あー、あいうえお。うむ、声も若くなっておる」
手も、腕も、胸も、足も若さを取り戻し・・・・・・あ、もうひとつあった。
「おお!! わしの息子も若さを取り戻して暴れておるわ。はっはっは」
いやあ、若い時を思い出すなあ・・・・・・昔はコレを使って、よく女を侍らしたっけか。
そうだ、明日は久方ぶりに一発、挑戦してみようか。すっかりご無沙汰してるしなあ。
「そうと決まれば善は急げ、だ。コンビニにマムシって置いとるかな、いやマムシなど不要ではないか。男ならば己のいちもつを信じよ・・・・・・よって寝る!」
実に軽やかな足取りで四畳一間へと戻り、ちゃぶ台を窓際に寄せ、地下室への上げ蓋を下ろし、その上に花柄の布団を敷く。そして飛び込む。
「あー、最近の若い
今夜はいい夢が見れそうだ、と思いながらやってくる眠気に意識を預けた。
じいデレラ ノケモノ @matsu726
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。じいデレラの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます