第4話
病室のカーテンを開けると眠った兄の姿が見え、翔太はホッとしたような残念なような気持ちに包まれた。両親は医師に昨夜聴けなかった詳しい事情を聴いている。近くにポツンと置かれていた椅子を引き寄せて、兄のベッドの隣に座った。後ろの窓を見るとまだ雨が降り続いている。
「…翔…太…?」
聞覚えのある声にハッとして振り向くと、兄が少し身体を起こし、右手を伸ばして翔太の左腕を掴み、グイッと翔太を引き寄せた。
「お前、無事だったのか⁉︎怪我は⁉︎」
「いって!ねーよ!逆にてめえの手で腕折れる!」
「あ、悪い…。」
パッと兄が手を放すと翔太は赤くなった腕を反対の手でさすった。
「翔太、今日のバイトは?」
「…オフ。あっても、あんなことあった後で行く気になんねーよ。」
「…そうか…。心配かけたな。」
「は⁉︎別に心配してねーし!ってか、俺を助けるんならあんなことすんじゃねー!夢で分かってたなら最初から俺に話してくれれば良かっただろーが!」
「夢?」
しまったと翔太はふいっと兄の顔から目逸らした。
「ああ、あのノートを見たのか…。…悪かった。確かに俺がお前の立場だったら、同じことを思っただろうな。だが、お前に話しても信じてくれないと思った。」
「は⁉︎勝手に決め付けてんじゃねーよ!んなの話してみねーとわかんねーだろーが!話してもし俺が信じなかったら、別の策を考えてやりゃー良かったじゃねーか!そうゆーの一番兄貴が得意だろ!俺、あん時…、俺…。」
泣くな、泣くな!と翔太はぐっと堪えた。兄は翔太の身体がブルブルと震えているを見て、ポツリと呟いた。
「…俺だけじゃ無かったんだな…。」
「え?」
パッと翔太が顔をあげると「いや、何でもない。」と微笑みながら兄は応えていた。久しぶりに兄の笑顔を見たと思った。
「悪かった。翔太の言う通りだ。決め付けないで先に話せば良かった。次からは必ず言うようにする。」
「……分かりゃいいんだよ、分かりゃ…。」
兄はにっこり笑って「ありがとう。」と言った。翔太は何だか気恥ずかしくなって兄から視線を外した。
「あ、虹だ。久しぶりに見たな…。」
兄のその言葉にふと後ろを見るといつの間にか雨は止み、空に薄っすら大きな虹がかかっているのが見えた。その時は思わず翔太の顔も綻ぶ。二人はしばらくその空を見上げていた。
天邪鬼 青柳魔鬼 @Minazuki0812
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