第6話 世界の……。
翌日
私は電話で『P,P,P』の『加藤』と話をしていた。
美詠の母親に会った事を告げると『加藤』なる人物は人体のデータ化の研究をしている事について認めた。
そして美詠の母親が密かにオメガクライシスの開発をしているもの認め会社としても困っていると話してくれた。
彼女は優秀な人材で辞められては困るとも言った。
大人の事情はともかく会社として美詠の母親にオメガクライシスの開発を止めるように言っても無駄な事は分かった。
電話を切り一息つくと。
私は美詠の母親の表情が思い出していた。
そう、それは未来の世界を連想させた。
皆、無機質でそれていて争いが絶えない世界の終末の姿は美詠の母親はそっくりだった。
絶望か……。
気がつくと美詠からメールが届いていた。
それは次第に進む自分の身体のデータ化に戸惑う内容だった。
私は『大丈夫』とだけ返すのが背一杯だった。
それから
私は美詠の母親に近くの公園に呼び出されていた。
ゲッソリと痩せほそり今にも倒れそうだった。
オメガクライシスの開発が終わった事と一人分のワクチンソフトを作った事と。そして、私にある提案をしてきた。
「あなたはきっとオメガクライシスによってデータ化された感染者の一人ね。何故あなたの様な人がいるのかは聞かないわ。でも、あなたは美詠に良くしてくれたみたいだから、特別にワクチンソフトをあげるわ」
「何故、美詠さんに使ってあげないの?」
「細かい理由は幾つかあるけれど、簡単に言えば美詠が感染したのはプロトタイプなのこのオメガクライシスとは別物として考えて下さい」
「それで私に世界の終わりをこの目で見ろと言うのですか?」
「確かにそうとも言えるわ」
それは善意でも悪意でもなく、ただ研究者としての気まくれに感じとれた。皮肉なもので未来の世界で皆が競ってワクチンソフトの開発を試みたのに、こうも簡単に作られてしまうとは……。
長い沈黙の後わたしは口を開いた。
「一晩考えさせて下さい」
美詠の母親と別れ無機質な部屋に戻るとCDをかける今日もビートルズだ。
そして、その晩はなかなか寝付けないでいた。
一夜明け
再び公園で美詠の母親と待ち合わせる。
少し早く着いたが彼女は来ていた。
「どう?一晩考えて、答えは出た?」
「あぁ、答えはワクチンソフトを貰うだ」
「そう……美詠を置いて一人だけ助かろうと言うの?」
「そうだ」
「…………」
美詠の母親は下を向き黙りこんでしまった。
「最初からワクチンソフトなんて無かったのだろ」
「えぇ、そうよ、そんなモノがあれば美詠に使っているわ」
その言葉と共に泣き崩れる。
すると、美詠がやって来る。
母親の様子がおかしいから付いてきたらしい。
「お母さん私、データ化しても強くなるから、だから泣かないで」
美詠の言葉に更に涙を流す彼女であった。
「美詠……」
「誠さんでしたか……あなたの勝ちよ、オメガクライシスは破棄するわ」
美詠の母親はスマホを取り出し操作する。
すると……。
私の身体が消えて行く。
「これは!?」
そうかオメガクライシスが無くなり未来の世界が変わったのか。
そして、私の役目が終わりを告げているのか。
「美詠さん、お別れだ」
「えぇ?」
「私の任務は終わり、あるべき世界に帰るのだよ」
「そんな、一人にしないで……」
消えゆく意識のなか私は約束をした。
―――
気がつくと大学の研究室だった。
「誠くん、どうしたのかね」
「すみません、何か疲れていたようで」
そうか、オメガクライシスが無くなり未来の世界も変わったのだと。
そう、まるで、朝の浅い夢の様な記憶だけが残っていた。
私は最後に美詠と交わした約束の事を考えていた。
それから
時系列的には未来の世界では数時間しか経っていなかった。
しかし、街は過去と変わらず、淡々としていた。
終末を迎えた未来ってどんな感じだったのだろう?
私は少し混乱していた。
そして私は高校に忍び込み立ち入り禁止の屋上に来ていた。
すると、少女とすれ違う。
美詠の香りだ。
振り返ると女性も足を止め、
「美詠?」
「あなたは……?」
「誠だよ」
「そう……30年ぶりなので最初は分からなかったわ」
雰囲気こそ変わっていたが、美詠そのものであった。
「何故、年を取っていない?オメガクライシスは生も死もあるウイルスなのに……」
「あなたも知っているはず、私はオメガクライシスの感染者ではない事をね」
そうか……
「あれから30年後の今日、この辺りで出会えそうな気がしてね」
データ化か……。
私達の物語は今日から始まるらしい。
P.A~プロジェクト・エンジェル 霜花 桔梗 @myosotis2
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます