第5話 八番の魔女

 日曜日

 朝から支度をして私は隣街の300mくらいの森に囲まれた山に登っていた。

 頂上には地元の人しか知らない神社があるらしい。

 やはり、私は過去の世界に来て変わったのかもしれない。

 人間臭くなったというか、死んだ姉や美詠のことデータの拡散が頻繁に起きるのであった。

 私は無を求めていた。それは、ただ、心を癒すだけの為に登っていた。

 少しだけ整備された木で作られた道を登る。

 体はデータの塊でも息が切れる。

 一段一段確実に登って行った。

 隣街まで自転車で来ていたので余計に辛い。

 やがて辺りが開け。

 そして、頂上に着くと確かに小さな神社があった。

 私は……私は……。

 きっと変えられる。自分が変わったのだから。

 データ化された未来の世界を……。


 私は学校の窓から外を眺めていた。

 小鳥が舞、この何気ない日常に浸っていると……。

 すると、美詠が近づいて来る。

 私は自分の目を疑った。

 美詠のデータ化が進んでいた。

 詳しく話を聞こうにも少し疲れているだけと返ってくるだけだった。

 普通の人には分からないだろうが美詠のデータ化は右腕から顔の一部にかけてまで進んでいた。

 私はふと、美詠のデータ化された顔の一部に触れる。

 不思議なものでデータ化されているのに温かさを感じた。

 そして、美詠は少し嬉しそうにして去っていった。

 指に残る温もりはまだ、美詠が完全にデータ化していない証拠……しかし、時間は刻々と過ぎていた。


 体育の時間、今日はマラソン大会に向けて走り込みだけだ。

 美詠は一人グランドの外で見学をしていた。

 う、私もまたデータの拡散を起こし、走るスピードが落ちていった。


「立花、体調が悪そうだな、お前も見学していろ」


 厳しいで有名な体育の先生が言うのだから。

 体調が本当に悪いらしい。

 私は美詠の側に行くと声をかける。


「こんにちは」

「何?」

「美詠もデータの拡散でも起きたの?」

「そう、これがデータの拡散と言うのね。そう言えば何故あなただけデータの拡散の事を知っていて?」


 しまった、私が未来から来た事は秘密だった。ここは嘘をつこう。


「今の時代を変えようと、私は過去の世界から来たのだよ」

我ながら適当な嘘だった。

「そう、あなたが特別な人だとは思っていたけれどそんな事情があったのね」

あれ、信じた。


それはある晴れた日の日常であった。


 それから

 屋上に美詠と二人でいた。

 私は美詠にデータの拡散について呼び出されていたからだ。


「で、あなたが何者かは詮索しないから、私に起きている事を教えて」


 やはり嘘だとばれていたか……迷った末に遠い国から来たで押し通す事にした。

 そして、美詠の問に私は世界のデータ化の危機だと言った。

 美詠は顔をしかめた、やはり心当たりがあるようだ。

 私は再度、美詠の母親に会う事を提案した。

 答えはやはりNOであった。


「ねぇ、難しい話は止めて空を眺めない?」


 重たい雰囲気の中から出た美詠の一言であった。

 確かに今日は快晴であった。

 空の色だけは未来の世界と同じであった。



 今日は心がざわざわする。

 穏やかな日常に変わりないのに。

 まるで余命宣告でもされたかのごとき。

 普段は書かない日記らしきものを書いたり。

 何だろう?心が熱い。

 データの拡散とも違う。

 記憶が消える?

 過去の世界は私には刺激が強すぎたのか……。

 これはデータの崩壊と言った方が良い。

 戦いの無い日常でデータを維持しようとする心が失われたのかもしれない。

 この過去の世界にも無秩序なところはあるのに。

 未来が悲惨すぎるのかもしれない。

 美詠にメールをしてみるが返事はない。

 私は自分にYesと言い聞かせていた。

 落ち着きを取り戻したのは夕暮れ時だった。

 気がつくと美詠からメールの返事が来ていた。

 ほんの少しだけ私は嬉しさを隠せないでいた。


 私は再び母親が務めるゲーム会社『P,P,P』アポイントメントを取ろうした。

 再度『加藤』なる人物に会う事が出来た。

 しかし、話は平行線で終わり帰り際にある女性とすれ違う。

 美詠と同じ香りがした。

 直感的に美詠の母親だと分かった。

 私は振り返り声を放つ。


「あなたは美詠さんの母親では?」


 女性は足を止め振り返る。

 そして、その女性と応接室で話す事になった。

 女性は川崎と名乗り美詠の母親である事を認めた。

 更にオメガクライシスの開発している事もあっさりと話てくれた。

 何故、世界をデータ化する様な破滅のウイルスを作っているかの問に美詠の母親はこう言った。


「私はよりリアルなゲームを作る為に人体のデータ化の研究をしていた。そのソフトサンプルをスマホに入れて自宅に持ち帰ってしまい。そして誤って美詠に感染させてしまったの。私は絶望したわ。美詠の居ない世界など無くなってしまえば良いと無差別に感染するオメガクライシスの開発を始めただけ」


 淡々と話す美詠の母親は何かに取りつかれた様だった。

 しかし、それで美詠が『八番目の魔女』と呼ばれる真相か……確かに美詠のデータ化で感染者が爆発的に増える訳か。


「はい、話はお終い、私はここで失礼するわ」


 美詠の母親は応接室から出ていった。

 愛する娘に誤ってデータ化させてしまった悲しみは分からくもないがそれと引き替えに世界のデータ化など許さない。

 何ともしても美詠の母親を止めなければ。

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