第6幕〜天国と地獄は地続きで〜
「え、本当に犯人が分かった……の? 」
「あ!? 疑う言うんか? 」
「あ、いや……そんなつもりはなかったんだ……。
ちなみに犯人は誰だったの? 」
「まあ落ち着けや佐渡」
唐沢はスマホを取り出すと何かを探し始めた。
「あ、こいつやこいつ。越川ってやつやで。
荒北からイメージで、こいつの顔が浮かんできたんや。きっと間違いあらへん」
(信司が犯人!? いや、ありえないって……
まずあいつがそんなことするわけないし、ずっと教室にいた……よな? )
動揺したせいで扉を少し蹴って音を出してしまった。
「誰や!? 」
咄嗟に扉の後ろに身を隠した。
冷汗が流れているのが分かる。
「……? 誰もいないみたいですよ? 」
「……まあええわ。 ほな、他にも見ておきたいとこもあるし聞きたいことがあるから行くで」
そう言って二人は女子トイレから出ていった。
(危なかった……。でも、もし信司が犯人だったとして。殺した方法が教室からでも可能な。そう……能力とかだったら。
僕は……一体、どうすればいいんだ……? )
緊張と焦りで少し動揺していた。
ひとまず様子を見ることにする。
一応、【親友】だし最後まで信じよう。
取り敢えず、澤島さんにはまだ手掛かりは見つかってないと言っておこう。
あと、唐沢の能力[サイコメトリー]について教えておこうかな。
そうして簡易な文面でメールを送ると、ひとまずこの場を後にした。
残りは2時間。僕は参加者についての情報を集めることにした。
──────
というものの、僕にその対人スキルはあるわけもなく、情報をそう簡単に教えてくれるわけがなかった。
参加者の名前や顔は端末で分かる。
でもそれぞれがどんな部活に。どのクラスで趣味は何かなどの情報は全くと言っていいほど分からない。
何か証拠等を見つけているだろうが、参加者は皆自分の不利になるようなことは言わないだろう。
回答では一番正答率が高い一人しかポイントが貰えないのだから……
そうして外に出てみると、一人の参加者が見えた。瀬戸さんだ。
瀬戸さんの後ろを能力を使ってついて行くことにした。
別にストーカー趣味があるとかそういうことではない。
この能力を使えば他の参加者から情報を得ることができるかもしれないからだ。
昨日の夜の雨の後が少し残っていて水溜りを踏んだ音で気付かせないよう注意しながらしばらくついて行くと、とある場所に着いた。
そこは犯行があった女子トイレの真下。
外からは窓が高い場所に設置されており、覗くなんてことは不可能だ。
瀬戸さんはずっと壁を見つめていた。
それから数分して地面を見たあと、何かを思いついたかのような素振りを見せて、来た道を走って戻っていった。
その時僕とすれ違ったが彼女は気付く素振りは無かった。
きっとこの力も強化されたのだろう。
その後、僕も瀬戸さんが見ていた壁を見た。
なんの変哲もない普通の校舎の壁だ。
綺麗とは言えないが別に汚いわけでもない。
所々に砂のようなものがついているがただの汚れだろう。
窓も見たときと変わらず開いており、近くで何かを投擲できるような高い場所もない。
次に地面を見たが、特に何か落ちているわけでもない。
雨のあとでやはり泥が隅に残っている。
(これで何に気付いたんだ……? )
そこで後から声をかけられた。
「加藤君。何か手掛かり見つけた? 」
澤島さんだ。声のトーンから察するにあまりよろしくないようだ。
「今参加者の一人がここを見てて、何かに気づいたみたいです。
僕も見たんですけれど分かりませんでした」
「私達は協力関係なんだから敬語じゃなくていいよ? 」
「うん、わ……わかった」
「うん!その方が私は好きだよ! 」
不意な『好きだよ』という言葉についドキッとしてしまったのは本当に不甲斐ない。
でも、こんなに可愛い子からそんな言葉を言われたらつい顔が緩んでしまっても仕方ないよな。
そうして僕が照れ隠しに後ろを向いている間に、澤島さんは周辺を観察していた。
そして僕に質問してきた。
「加藤君は何か気付いたことある? 些細なことでもいいんだ。教えて! 」
「そうだね。壁に少し泥がついているのがやっぱり気になるかな」
「やっぱりそうだよね! 一つ、どうしても疑問があるの。
さっき、現場に最初に来た涼風さんと、反対側から最初に来た黄川田君に誰か他の参加者と遭遇しなかったか聞いてみたの。
そしたら誰とも遭遇してないみたい。
それじゃあ犯人はどこから逃げたんだろう? 」
「推理小説とかだと犯人は初めから逃げてなくて現場にいたりとか、最初に見つけた人とかだよね」
「そんなに単純だったらいいんだけどね……
ほら、例の能力あるじゃない?
だから物理的に不可能なことでも、何とか出来てしまう。これじゃ難しいよ……?」
澤島さんは何か疑問に思ったようだ。
しかし、それを聞く暇もなく
「ごめん、ちょっと確認しなきゃいけないことフエチャッタ。また後でね加藤君! 」
そうして、澤島さんは走り去っていった。
僕はあれから少しそこらを歩き回っていた。
特に何かを見つけるわけでもなく、諦めたように彷徨っていた。
(僕にそんな探偵みたいな大それたこと出来るわけないしね)
ゴミ捨て場の近くを通ったとき、よく見慣れた姿が目に映った。
そこには信司の姿が。
話しかけようとしたが咄嗟に能力を使って隠れる。
信司の隣には女子の姿が。確か花崎さんだ。
二人はとても真剣な表情で話しており、信司の表情はいつになる暗かった。
見てはいけないものを見た気がして僕はその場から離れた。
信司と途中で合流して今は教室にいる。
唐沢の言っていたことを信じているわけではない。
しかし、本人に直接聞くべきなのか。
信司はとても表情が暗く、いつもの面影も見られない。
そこで信司は口を開いた。
まるで鉛を背負っているかのようだった。
「輝。あらかじめ言っておくが俺はやってねーぞ? 流石にずっと教室で授業受けてたから無理だろ。
そもそも、俺の能力じゃ絶対に無理だしな……」
まるで僕の思ってることを全て見通しているかのようだった。
それが少し気に食わなくて僕はおちょくってみる。
「能力は知らないけど、信司には無理だろ。
だって女子トイレに入るなんて度胸ないだろ? 」
「は? ばっかお前、そんぐらいよゆーだってのよゆー。小学生のときは良く入ってたぜ」
「そんなことをしたら愛しの神崎さんが泣くぞ」
「あいつとはそんなんじゃねーっツーの「 」
少し信司の表情も和らいだみたいだ。
信司は、深呼吸をして
「輝、ありがとな。いろいろ考えすぎたみたいだ。最初から答えなんか決まってたもんな……」
信司の目には決意が滲み出ていた。
これなら当分安心できる。
と思ってた時、スマートフォンからアラートが鳴り終了のお知らせと結果発表をするという場所が載せられており、僕達はすぐさま向かった。
────────────
集合場所は視聴覚室だった。
集まったのは13人。荒北さんを抜くと2人足りない計算となる。
そこで前にいた葛西さんが喋った。
「皆様お疲れ様でした。これにて第一回戦を終了とさせて頂きます。
それではまず、犯人と犯行方法についてお教えしたいと思います」
「その必要はあらへん! ワイが全て答えたるわ」
自信満々に割り込んできたのは唐沢だ。
「犯人は荒北に事前に水筒を渡して下剤を飲ませた。水筒に下剤が入っていたからな。
犯人は一時間目の間にトイレに行くことがわかってたから待ち伏せて殺害。
その後犯人は身体強化のような能力を使って窓から飛び降りて逃走。
これが答えや。そこに独自の捜査を加えて犯人を見つけた。
荒北を殺したんは……越川! お前や!! 」
唐沢はそう言って信司を指差した。
しばし静寂が流れる。その流れを切ったのは葛西さんだ。
「それではまず、回答の方から発表させて頂きます。第一位。回答率……素晴らしいっ! いきなり100% 瀬戸さんです。おめでとうございます!
第二位とは20%以上差をつけての大勝利です! 」
参加者は皆唖然としていた。
なにせ100%とパーフェクトを一回目から叩き出したのだから……
さらに、唐沢のさっきまでの流れ。それを一気に絶ち切ってしまったのだ。
そんな中、やはり一人納得しない人がいた。
「おかしいやろ! なんでワイが95%以上に入っておらんのや!」
「唐沢さんは第3位で72%です。これは正当な審査の結果ですので間違いは一切ありません」
「仮にそうだとしてもわいは犯人を間違ってあらへん! 」
「それでは犯人を発表させて頂きます。犯人は……」
発表しようとした途端、部屋の空気が重くなった気がした。
一番最初に殺した犯人。ゲームを開始した張本人。一体誰なのか……
「鮫島さんです」
まったく予想もしていない名前が出た。
スマートフォンで名前と顔を調べると、今日僕は一度も見たことがなかった。
しかし、信司でなかったことに安堵したが、名前よりどのような方法で犯行に及んだのか気になった。
「そんなアホな……んなことあるわけ…… 」
「あるんだよ!ゔぁぁぁぁかあぁぁ!!」
突如声を荒らげた瀬戸さん。今までのイメージとは全く似つかない。
「理解力の乏しいお前に全部種明かししてやるよ。
まず、下剤を水筒の中に入っていたのは正解だ。だがなぜだ? こんなデスゲームが始まった中、参加者から貰ったものを口にすると思うか?
答えは簡単だ。親友や彼氏等の親しい人から貰ったんだろう。
じゃあ、なぜ下剤が入っているのかと疑問になる。
ルールで犯行を一般人に知られちゃいけないからな。これも簡単だ。
【協力者】だよ。能力か何かで利用したんだ。
これを知るのに【交換】で味覚を失ったがな」
もはや凄いとしか言いようがない。さらに的確に交換機能で情報を手に入れている。
一回目とは思えないほどの的確さだ。
「その後トイレで待ち伏せはいい。
だが、なぜ待ち伏せられた? 授業中の犯行なら他の参加者に気付かれてもおかしくないだろう。
試しに職員室で出席簿を確認してみたら、参加者は今日全員出席してた。
それじゃあ、どうやったんだろうなぁ? 」
唐沢を煽るような素振りを見せながら、参加者を見渡す。
すると工藤会長を指差した。
「部活等の大会や合宿での出席扱いだろう」
「その通り! 堅物生徒会長やるねー!
だから皆疑問に思わなかった。今日、合宿で学校にいないのは山岳部。
山岳部の参加者は一人しかいないからね。
しかしそれじゃあ山岳部の参加者が犯人だという証拠は不十分だよね。それについて答えるよ。
荒北さんはトイレで待ち伏せしてた犯人に刺された。でも普段より厚く着込んでたんだよね。だから何度も何度も刺した。犯人は、殺傷能力のある能力を使われるのが怖いから必死だったんだろうね。
まあ、もしここで能力を使って殺害するような馬鹿なら皆も分かりやすかっただろうね」
最後のは僕達を煽ったのだろう。
もし能力で殺していたのなら、能力について調べればすぐに犯人は特定されてしまう。
だから、誰でも犯行が可能だと見せる必要があった。
つまりそういうことを言っているのだろう。
「ほんならなぜわいの能力で見つけた犯人が、越川やないんか? ワイの能力は絶対やで! 」
唐沢が食って掛かる。
「そこは協力者の能力だよ。ここは味覚と嗅覚を代償にして貰った情報だから言わないけど、そのせいでお前は勘違いした。まんまと嵌められたってわけだ」
「なぜワイの能力がバレてたんや!? 」
「お前、休みの間も色んなところで使ってたろ。
能力を強化するためによ。誰も知らないとでも思ってたか? これも情報を買ったけどな」
唐沢は黙りこみ、下を向いた。とても焦っているように見える。
「続けるぞ。通知が来て死亡を確認したあと、犯人はバリアフリーのトイレの手すりにロープを縛り付け、【ラペリング】で降りた。
そんなことが出来るのは登山部だけだし、壁に足跡のような泥の跡がついてたからね。
降りたあと、彼は能力。発火のようなものを使って即座にロープを燃やして逃走したというわけ。
地面とバリアフリーの手すりのところに少しロープが焦げた跡が残ってたよ。
それに登山部の合宿に出発するバスはまだ学校を出てなかったから戻るのも容易だろうね。
まあ彼も、参加者以外の時が止まるのは意外だったようだけど……
以上が犯行方法の全てだよ。
と犯人の前で堂々と言いたかったんだけどね。きっと彼はバスで合宿に向かっているだろうよ」
誰も異論を言おうとするものはいなかった。
まるで、時が止まっているかのよう。
いや、混乱して脳の回転が止まっている。
グラグラして今にも倒れてしまいそうな、そんな緊張感に満たされていた。
完全に彼女の独壇場だ。
「それでは結果として、瀬戸さんには指輪を贈呈致します。
使い方としては、指にはめていただき0時までに希望する昔話やおとぎ話等を強くイメージして寝てください。
次起きたときにはこの殺し合いの記憶はなくなり、無事再現されていることでしょう……」
そういってリングケースを瀬戸さんの前に出して開ける。
そこには紫がかった怪しい雰囲気の指輪があったのだ。
参加者の一部がそれを見て、言葉にならない声を上げる。
まるで歓声のよう。
異質なのは、それが賞賛ではなく、ほしい。欲しい。ホシイ。という欲が口から漏れたようだった。
そして葛西さんは続けた。
「この指輪を強奪。奪う行為は禁止事項ですのでお気を付けください。
それでは最後に、回答率が95%を超えたため犯人には執行。及び罰を受けてもらいゲームから退場となります。
……それではこちらのスクリーンをご覧ください」
そうしてスクリーンが降りてきた。
そこには上からバスが見える。
きっと登山部のバスだろう。
その時、上から鉄の太いパイプのようなものとてつもないスピードで落ちてきて狙ったかのようにパスに突き刺さった。
バスは急停止し、生徒が次々に外へ恐怖に染まったかのよう出ていく。
……なんとなく理解した。
あの刺さった下では。犯人が。鮫島という人が死んでいるのだということに……
参加者は顔をしかめたり、口を抑えたりと驚愕の反応を示していた。
罰といえどあれは残酷すぎ……ではないのかもしれない。
私利私欲のために人を殺したんだ。あって当然の罰なのかもしれない。
葛西さんは参加者の表情を見て少し笑った気がした。
「それでは第一回ガルムをこれにて終了と致します。明日0時になるまで、ゲームは無効となっておりますのでご注意下さい。
それでは皆様、お疲れ様でした」
そう言って葛西さんは視聴覚室から出ていった。
────────────
それからの記憶はあまり無い。
自分の教室に戻って授業を受けている。
授業中に戻ってきても、先生たちや生徒は何も気にしていなかったのが幸いだ。
放課後、信司とは別で帰った。
神崎さんに悟られず会話ができるとは思えなかったし、何しろ頭が真っ白だったからだ。
夕焼けに彩られた町並みが、黒く、灰色に滲みだしていた。
僕は一体どうすればいいという無力感の中に、少しだけ……
いや、きっと気のせいだろう。
そうして感情を押し殺した。
─────僕に価値なんてものは要らない……
無色のパラノイア 葉隠セシル @CecilHagakure
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。無色のパラノイアの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます