第5幕〜動き出す者達〜

相変わらず、とても清々しい目覚めだった。

殺し合いのゲームだと昨日物騒な事を言われたのに、殺されるという自覚が全くと言っていいほど無い。

取り敢えず起きて朝食を食べ、部屋に戻った。


(まあ、実際にゲームが始まってからじゃないと分からないしな。

それに。深く考えても崖に深く落ちそうだし、少し目を通すくらいが丁度いいだろう)


そうして軽く目を通した後、パソコンを開いてとある動画を開いていた。

名前を【Garden of Eden】

ファンタジーな世界で装備を整えた人間が様々なモンスター戦ったり、探検してる姿を放送しているチャンネルである。

ここでは殆ど24時間放送されていて、 人間らしい言動やリアリティから、とても人気の高いチャンネルだ。

これを垂れ流して、残りの休日をダラダラ過ごすことにした。

普段からこんな感じでゲームしたり、本を読んだりと部屋から出ない休日を過ごしているから別に問題はない。


(他の参加者はきっと。今後の計画でも考えてるのだろうな。

例の取引を使うかどうか。もしくは使ってどの情報を手に入れれば有利に運ぶことができるのか。

能力をどう活かして殺害し、証拠を減らすか。

きっとそんなことを考えていたりするんだろうな。

……なんで俺はこんなに落ち着いていられるんだろう。

テスト前日の方が、俺にとっては殺されることよりも怖いみたいだな)


そう思うと不意に笑えてきて、つい口元が緩んでしまった。



──────

そうして土日を過ごし、朝学校に行く準備をしてるとき電話が鳴った。

相手はもちろん

「もしもし。信司どうした? 」

「おはよう輝! 金曜に言っただろ。登下校一緒に通おうって。

今玄関の前にいるから早く来いよ!」

「お前は僕の彼女か! 普通にインターフォン押せばいいだろ」

「ばっかお前、男が朝から学校行こうぜとインターフォン押して誘うとか……恥ずかしいだろうが。

それともなんだ? 部屋に押しかけてギャルゲーみたいに起こしてやろうか? 」

「うん、ごめん。もういいから、ちょっと待っててくれ」


そうして呆れながら準備を整え外に出る。

信司はもちろん、他にも一人いた。


「紹介するぜ。幼馴染の美咲みさきだ」

「始めまして加藤さん。話は伺ってます。神崎美咲と言います。いつも信司が大変ご迷惑をお掛けしています。

この人と関わるの、とても大変でしょう」


神崎さんは可愛いというより美人といった感じだ。

セミロングの髪型で大人びた雰囲気だ。

信司には勿体無いとしか言いようがない。


「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします。

信司には大変お世話にさせられています。

神崎さん、心中お察ししますよ……」

「ええ、昔からこの調子でもう慣れてしまいまして……」

「おい待て、二人ともどういうことだよ?!

俺がちょっとした問題児みたいじゃねーか! 」

(いや、割とそのとおりだと思うぞ)


今日から殺し合いが始まったというのに随分と賑やかな毎日になりそうだ。

そんな調子で会話をしながら学校に着いた。

校門の近くには一台バスが止まっていた。

きっと部活動の遠征か何かだろう。

荷物をトランクに入れ、生徒たちが次々とバスへ入っていく。

それを横目で少し見ながら僕達は教室へと向かった。


僕達2学年は全部で15クラス、一クラス42人と全校にして二千人を超える学校だ。

もちろん学校の敷地はとてつもなく広い。

だからこそ、名前や顔を知らない人が多い。

僕と信司は9組。神崎さんは12組と廊下で別れた。


「なぁ輝。本当に殺し合いって始まってるんだよな? それにしてはいつも通り過ぎないか? 」

確かに、僕もそう思う。

「でも、学校にいるうちは大丈夫だと思う。

他の生徒もこれだけ人数いる中で、見られずに犯行に及ぶなんてことは難しいと思う。

ひとまず、いつも通りに過ごしていれば良いんじゃないかな? 」

「それもそうだな」

その後午前9時のチャイムが鳴り、お互いに席に戻って授業を受けた。

(このまま何もなければいいが)


そう思っていたが、予想は外れた。



現在午前9時20分。

念の為とポケットに入れておいたスマートフォンに通知が来た。


死亡者 •荒北美香 死亡時刻 •10時40分

つ死因 大量の出血による多量出血死



この下に画像でマップに死体の位置が表示されていた。


さらに辺りを見渡すと異変が起こっていた。

自分以外の人々の行動が止まっていたのだ。

いや、自分以外。というのは語弊があった。

正しくは参加者以外だろう。

時計も止まっていた。

急なことで驚いたが、まあ今更無くはないだろうと妥協してひとまず、死体のある場所へ向かってみることにする。

それは信司も同じようだった。


死体が指めしている場所に向かうと既に10人近く集まっていたが、流石に参加者全員というわけでは無かった。

そこは4階の女子トイレ。

辺りには大量の血が散乱していた。

そこには案の定、背中に何かで刺された跡がある死体が。

きっと荒北さんだろう。

信司も含めた3.4人は顔を青ざめており、中には吐きそうな人もいた。しかし、殆どの人はこうなる事を覚悟している。とても冷静な目をしていた。

工藤会長の他にも数人が死体の周りを取り囲んだ。

僕も死体のそばへ寄る。


「ごめんね」

澤島さんが優しい声で呟き、仰向けの死体を起こした。

そこには何度も刃物のようなもので刺された跡があった。

痛々しくて、見ていて気分のいいものではない……

「何か持ってるかもしれないから服、脱がせようか。

ほらほら、男子は外行った〜」

そう言った彼女の名前は瀬戸霞。

黒髪の綺麗なロングヘアー、少し癖っ毛がある。

そうして僕ら男子と、一部の女子を覗いた4人がトイレに残る状況となった。


(さて、どうするか……)

そこで一人、イラついた声で話した。

「ったく。こうして俺らにポイント取らせんようにすんやろ。

どうせ情報を開示するわけあらへんしな

ツンツンした赤色の髪が特徴の彼は唐沢だ。

彼はそう言って現場を後にしたようだ。

それに続くように、僕と信司を残してそれぞれ現場を離れていった。


「俺もちょっと気分転換に外行ってくるわ。流石にあんなの見たら……な。輝はどうする?」

「僕はまだ少し残ってみるよ。気になることもあるし」

「そうか。気をつけろよ」

そう言って信司は去っていった。


(さて、とは言ったものもどうするか……)

そこでトイレの扉が開いた。

「おまたせ〜ってあれ? 君しかいないの?

勿体無いな〜。せっかく情報提供しようと思ったのに〜」

制服のあちこちを血で汚しながら4人は出てきた。

「あ、え〜っと。君は確か加藤君だよね?

それじゃ私から伝えておくよ」

「おっけ〜。それじゃ澤島さんよろしくね〜」

そう言って僕と澤島さんを残して。他の人たちは去っていった。


「さ〜ってと。ねぇ加藤君。私と協力関係組まない?お互いに情報を共有して有利に進めるの。そうすれば少なくとも情報量は増えるし、他の人よりは有利になる。

まあお互いにとってはね……。

どうかな?悪くない提案だと思うんだけどな」

前かがみで上目遣い。しかも可愛い。

これで断れる男がいたらそいつは男じゃない。

そう断言してもいいくらいだ。

それになかなかいい話だと思う。

「わ、分かった。その話乗るよ」

「え、ほんと!? ありがとう! 」

そう言って澤島さんは僕の手を取って礼を言った。

(ち、近いって……ッ)

すると僕の手からスマホを取り出して。素早い手付きで連絡先を入力していた。

「これ、私の連絡先ね! それじゃ何かあったら教えてね〜」

そう言って走ってどこかへ走り去っていった。

「あ、情報聞くの忘れてた……」

その瞬間、メールを受信した。



ごめんごめん!情報伝えるの忘れてた(> <;)

と言っても特に無いんだけどね(*ノω・*)テヘ

刺し傷は合計6箇所。多分ナイフか何かで刺されてる。

私が知ってるのはこんなところ。

何か分かったらよろしくね♡



と書いてあった。いや、どう返信すればいいのか。

まず。女子とメールなんかしたことないし……

取り敢えず、現場を少し見てみるか。

女子トイレに入るのには気が引けるけど……



──────

女子トイレに入ると、やはり血が散乱しており死体が。

でもこの現場、見渡しても特に不自然な点は分からないな。

まず、一高校生に分かるわけない。

敢えて言うなら窓の鍵が空いてるところかな。

と、ここで廊下で足音が聞こえた。

きっと現場を見に来たのだろう。

僕はとっさに能力で、自分の存在感を消した。

でも、この力はまだ弱い。トイレの一室の扉の後ろに潜れれば何とかなるが、音を立てたりすればすぐバレてしまう。

使えば強くなるとは言っていたが、そんな回数もこなしていない。


そこで足音の本人達がやってきた。

「ほ、本当に協力すれば僕の願い……

叶えてくれるんですよね……?」

「当たり前やろ。これは取引や。男に二言はあらへん。ほら、さっさと始めるで」

一人の声の主は唐沢だろう。

もう一人は分からないな。

(一体何を始めるんだ……? )

気になって少しだけ顔を出して様子を伺うことにした。

唐沢は死体の前に座り、手で触れ目を瞑る。

「か、唐沢君。何やってるの……? 」

「黙れアホ! 集中せんと出来へんから邪魔すんなや。 今やってるんは、いわゆるサイトメトリーってやつや」

確かサイコメトリーは、物とか場所に残ってる残留思念を受け取る能力のことだよな。


「……ッ!? 」

途端に唐沢は少し顔を顰めて、確かにこう言った。

「犯人……わかったで! 」

僕はようやく、これがゲームであると自覚した。

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