第4幕〜悪魔の目覚め〜

───ここは……どこ?

辺りを見渡すと、キーボードを必死な目つきで叩いたり、電話をしている人が沢山いた。

(う〜んと、私は会社にいるのかな)

この人も、資料を見ながら何か打ち込んで作業しているようだ。


そこで、何か後ろで声を掛けられたみたいだ。

その男性は50代くらいかな。

きっとこの人の上司だと思う。

口元やこの人の心理状態から察するに、責任を一緒に被ってくれ。みたいなことを言われているっぽい。

夢だからこそ、何となくだがわかる。

それでも、普通だったら断るでしょう。もしくは上手く躱したりするものだと思う。

誰だって、責任なんか取りたくない。

それが自分のものではないのなら、尚更だよ。

それなのに、この人は嫌な顔1つせずに受け入れる。

彼が、一番狂っているように見えた。


急に場面が飛んで、次の場所は随分と広い部屋だった。

(随分と怒られてるな〜)

相当上の立場であろう人に、この人は怒鳴られているけれど、なぜだか上司は、この人を庇おうとしながら少しニヤついていて、安堵した表情がチラチラと伺えた。

(ああ、上司はこの人の自己犠牲の精神を逆手にとって、上手く罪を擦り付けようとしているみたい。

それにしても、この人はこうなることを知ってるのになぜここまで出来るのかな……? 怖い……コワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ)



そして、また場面が変わった。次は、少し狭い道路。

辺りは薄暗く、日は沈みかけていて子供達がまた明日、と手を振り走って家に帰ろうとしている。


(ああ、私にもこんな時期があったな〜……)

学生のときの私は、争いが嫌でいつもニコニコ。

余計なことにはなるべく関わらないで、平穏に過ごしていた。

そのおかげとも言うべきなのだろう。

問題とは無縁の生活を送ってきた。

可も無く不可もなく。

それこそが私の座右の銘であり、生き方でもあるのだから。

でも、そのおかげで流されるだけ流された挙句、殺し合いのゲームに巻き込まれて……


ふとあの人は後ろを振り返ると、子供が後ろ向きで手を振りながら走っています。

(危ない!?)

子供は気が付いていませんが、カーブミラーを確認するとトラックが近づいていました。

しかし、そのときにはすでに、この人は子供を助けるべく走っていました。

(駄目、間にあわない……ッ!)

見たくなくてもここは夢。目線を……意識を逸らすことができません。

この瞬間、その人は少し決意をしたように見えました。

きっと、これで死ねるなら悔いはないといったものでしょう。

家族もいるのにこの人は……自分の信念のようなものが、何よりも優先される。

それが他人を助けるということ。

(でも自分が傷ついても他人を助けるというのは人助けではなくて、それはただの……)


彼はトラックの前に飛び込み、男の子をトラックの走行車線の外へ押し飛ばしました。

その刹那、トラックが彼とぶつかり──────


──────そこで私は目を覚ました。

鳥の囀りを聞きながら時計を確認した。

7時32分。 今日は土曜日だからこのまま寝ていても構わないけれど、私は二度寝する気分ではなく起きることにした。


最近、あの指輪を手にしてから変な夢を見ることが多くなった。

いつも断片的で、楽しいものから悲しいものまで。

夢特有の客観的に見ている感じだが、変に現実感のある夢。

しかも、夢の内容を確実に覚えてる。

確か、葛西さんから聞いた話だと私の能力は些細な変化にも気付ける観察眼のようなものと聞いたのだけれど……

取り敢えず、今日は気分転換にショッピングに行きながら防犯グッズでも見に行こうかな。


そうして私、櫻井美希はこの夢のことを深く考えず、身を守るための準備を始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る