第3幕〜不吉なファンファーレ〜

扉を開けるとそこには、すでに8人ほど集まっていて各々が自由に過ごしていた。

僕達が入って来たことに気が付いたのか作業を中断して一瞬視線をこちらに向けた。

その視線はまさに獲物を見定めるような、とてつもない殺気に満ちていた。

辺りを見渡すと、やはり同じ学校の生徒のみということで何人か知ってる顔がいた。


眼鏡をかけていかにも優等生のような雰囲気を持つ彼は工藤生徒会長だ。

見た目の通り、成績優秀で容姿端麗。

さらに運動能力もずば抜けていて抜け目がないらしく、生徒の中でも彼が憧れの人だとよく耳にする。

ただ話しかけても無駄なことは嫌いらしく、関係のないことは絶対に話さないことから、友人はいないらしい。

あくまで少し小耳に挟んだレベルだが。

別に親しい友人が少なすぎてそういった話をしないし、休み時間が暇だから周りの雑談に耳を傾けてたからだとかそういった悲しいことではない……そうであってほしい。



机に足をかけて金髪、耳にはピアスと見るからに不良な彼は神谷。

学校の中の不良グループのトップでよく問題を起こすことから生徒にとても恐れられている。

僕が最も関わりたくないタイプだ。



あと知っているのは端の席でスマホを触っている彼女。

名前を澤島嘉穂さわしまかほ

同じクラスでこの学校で1.2を争う美人だ。

モデルをやっており、誰にでも優しく接していることから同性の友人も多く、男子からは桃色の視線を送る人が跡を絶たない。

僕も興味がないわけではないが、手を出せるわけないのでそこら辺は区切りがついている。



取り敢えず知ってるのはこの三人だけだ。

他にも何人かは見かけたことはあるが知らない人ばかりだ。

さすがにこの気まずい張り詰めた空気で喋ることはできず、僕達は速やかに席に座った。


それから5分も経過すると残りの人たちも会議室に入ってきて、全員が席に座ったところで一人の女性が入ってきた。

昨日。あの不気味な店で能力を使えるようになる指輪を僕に渡した葛西さんだ。

前方に移動し全員が集まっていることを確認すると。軽く一礼し話し始めた。


「皆様改めまして、今回儀式の指導役となりました葛西と申します。

それでは早速ガルム。正式名称、ガルムの儀式の説明を執り行いたいと思います。

まずはガルムの大まかな流れから。

能力の指輪の所持者。つまり参加者を伊都芽沢高校から半径100メートル以内で殺害し、犯人は逃げます。

被害者の死が確定された瞬間、皆様にお配りしたスマートフォンに死体の場所を記した通知が行きます。

通知がされてから3時間の間、皆さんには調査する時間が設けられます。

そのスマートフォンに答え合わせという名前のアプリ入っていると思います。

そこに犯人の名前、犯行方法など、わかった範囲の情報を入力して送信してください。

犯人を除いた参加者の中で最も正解に近い回答を出した方一名には1ポイント差し上げます。

また、犯人と犯行方法などの正答率が95%を超えた場合その方にはボーナスとして+1ポイントを付与し、犯人は罰として退場されてしまいます。

犯人は全体の正答率の平均が70%を超えなかった場合、2ポイントを入手できます。

そして合計2ポイント手にした方には、願いを叶える指輪を手に入れることができるのです。

これが大まかなガルムの内容となっております。

続いて諸注意です。

死体は3分の2以上が残っていること。

それに反した場合は無効となり犯罪として処理されます。

次に、皆様にはそれぞれ能力が付与されていますがそれを一般人に使用を認知された時点で能力を失います。

また、犯行現場、および殺し合いの戦闘を目撃された時点で失格となり、仕掛けた側に参加資格剥奪後犯罪として処理されますのでご理解のほどよろしくお願い致します。

一度の犯行で殺せるのは1人まで。

それ以上は無効となり、参加資格剥奪後に犯罪として処理されます。

また、殺人などこのゲームに根本的に必要なこと以外の犯罪は適応されますのでご注意下さい。

他人の家に勝手に忍び込んで……

なんてことはできませんのでご理解の程よろしくお願い致します。

最後に、監視者により参加者のガルムの放棄が認められた場合には退場させられるのでご注意ください。

以上が流れと諸注意となります。

他にもいくつかありますが、資料を参照くださいませ。

何か質問はありますか?」



少し話してただけだったが、信司は少し寝かけていた。

このガルムのポイントは、ただ殺すだけじゃなく犯人を当てれば指輪を手に入れることができると。

それなら無理に殺さなくても良いってことか。

常に参加者以外と行動してれば殺される心配もないしな。

あ……僕にそんな友人いないんだった……

勝手に自虐的になって落ち込んでいると、工藤生徒会長が手を上げた。


「はい、工藤さんですね。どうぞ」


「3つ質問が。

まず1つ目は犯人の名前等を送信した際、どのような基準で優秀者を決めるのでしょうか。

2つ目は、ペナルティーや退場という言葉がありましたがその具体的な内容を教えてください

最後に……」


ここで工藤会長の顔にはほんの少しだけ動揺?疑問?焦り?恐怖?

よく分からないが、普段とは全く違う表情に変わった気がした。

「最後に、ルール違反した際に犯罪として処理されるとなってますが第一にこの殺人ゲーム自体犯罪ですよね。

ルールに沿って動けば犯罪として処理されないということはつまり、首謀者は政府関係者。

いや、政府そのものではないのですか?」

周りは、当然と言った顔の人もいれば一部に動揺を隠せない人がいた。


それはそうだろう。こんなに大規模なことをするんだ。政府はまだしも相当な権力者が手を引いていない限りは実現不可能だろう。

ここで指輪の件に触れないのは、皆自分の能力自体が異質で今更そんなものがあっても不思議ではないと確信しているからだろうか。

そもそも、こんなことをして一体なんのメリットが開催者側にあるというのだろうか?



こうした疑問や考察を抱く中、葛西さんは淡々と質問に答え始めた。

「まずは1つ目から。

判定基準は推察の精密さとどれだけ早く真実に辿り着いたかがポイントになっております。

そこに関しては安心してください。

皆さんの行動はしっかり監視者によって把握されておりますので公平な審査をいたしますよ。

2つ目はペナルティーとは、その場合にも応じますが、ポイントの奪取や能力や行動の制限などといったことをこちらの判断でさせて頂きます。

退場とは文字通り、この世界からの退場を意味します。まあご想像におまかせしますが」


少しだけ楽しそうに喋るさまがなんとも不快だ。

でもこれでなかなかの権力者が糸を引いていることは確定したな。


「3つ目ですが、それはお答えすることができません。

私から言えることは、ルールを守ってさえいれば他のことを心配することはありません。

以上です。工藤さん、満足な返答を出来ず申し訳ありません」

「……いえ、充分です。ありがとうございます」


それにしても、よく冷静でいられるよな僕は。

信司に関しては寝ないように聞いているだけで手一杯という感じか。

他の参加者も一部は冷静に分析しているようだ。今後どう動くかを……



「さて、続いてはガルムをより有利にすすめることのできる機能をご紹介します。

簡単に殺されたり、犯人を当てるときに皆さんが正答率が低いと困りますよね?

そこでこのシステムを使うと参加者に関する情報を取引で手に入れることができます。

スマートフォン端末より取引アプリを開いて、そこで欲しい情報を選択します。

その際、代償としてその情報と等しいだけのコストを頂きます。

コストとは例えば四肢や五感、大切にしてる物など人によってそれぞれですがご注意下さいませ。

取引の手続き完了後、0時になった瞬間にその情報が送信されコストが支払われます。

皆様、このシステムを効率良く活用して他の人より有利に進めてください。

これについて何か質問はありますか?」



そのアプリを開いてみると参加者の名前が書かれているカテゴリがあり、試しに自分の場所を開いてみると自分の身体情報に関することについてや、過去、家族関係、現在地、能力などなかなかの量があった。


それにしてもこの能力と現在地というのは知れるだけで相当なアドバンテージだよな。

もちろん、その分代償は大きいと思うが……


ここで一人の女子が手を挙げた。

名前や顔に心当たりはない。

ロングヘアで後ろで少し髪を結わえている彼女はとてもおどおどとした感じで今にも恐怖で倒れてしまいそうな、小動物のようなイメージだ。


「花崎さんですね、何でしょう?」


「は、はいっ。

えっと……その取引したときに0時の時点で、外でお散歩とかしてたらどうなるのでしょう……か?

急に目が見えなくなったり……するわけですか?」


「はい、そのとおりでございます。

なので取引する際はよく注意してお使いください。

他に質問は……ありませんね。

まあそのうち疑問が出てくるでしょう。

ガルムに差し障りがない程度ならばスマートフォンにある質問メールにて答えることができますのでそちらをお使いください。

それでは説明会をこれにてお開きとさせて頂きます。

尚、ガルムは来週月曜日0時から始まりとなります。

それでは、皆様の健闘をお祈り申し上げます」


そう言って軽くお辞儀をしたあと。すぐに扉から出て行ってしまった。

まるでこれ以上の質問は無意味だと言うように……

信司は扉が閉まったと同時に、目が完全に覚めたようだ。

しかし、いささか空気が重い。

それもそうだ、敵同士がこうして全員集まっているんだ。簡単に動けるわけがない。

殺気に満ちた雰囲気の中、不良の神谷は堂々と扉から出ていった。

それがまるでゲーム開始の合図ように、次々と扉から出ていく参加者。

大半がいなくなったとき、ようやく信司が軽く背伸びをしながら声を発した。


「さて、そろそろ行くか〜」

その緊張感のない声に少しだけ安心して席を立ち扉を開けた。

その時、さっき発言した髪を後ろで結わえている彼女と僕は扉を開けたときにぶつかってしまった。

「ご、ごめんなさいっ!」

震るえた声謝り、さっきまで座っていた席に戻って何かをバックに入れた後、走ってまた扉から外に向かった。

忘れ物を取りに来たのだろうか。

念の為、自分もショルダーバッグを確認し忘れ物が無いことを確認した。

バックのサブポケットが開いていたが、いつも開いたままのことが多いので気にしないことに……というわけにもいかず、これを信司に気が付かれると面倒なので閉めた。

あいつは意外とそういうところに、神経質なのだ。さらにお人好しがついて鬱陶しいレベル。



さて、今日は金曜日。

土日で休みがあるから取り敢えずゆっくり今日のことを整理しながらダラダラ過ごすか。

帰り道そんなことを考えながら帰っていると信司は言った。

「取り敢えず来週から登下校一緒に行かないか?

そのほうが安全だろう。あと一人友人連れてくるからさ。

念の為、護身用にスタンガンとか用意しといたほうがよさそうだな」

「そうだね、信司以外に友人と呼べる友人いないから助かるよ。

僕は護身術とか苦手だし、喧嘩もしたことないから何か休みの間に考えておくよ」

こういった軽い殺されないための対策について喋っていたら、すぐに待ち合わせた公園についた。

「それじゃーな輝!絶対殺されんじゃねーぞ」

「そっくりそのまま返すよ」

そうして、僕達は家までの帰路を歩いて帰っていった。


家に着いて食事をし、風呂から出たあと自室で今日のことを軽くまとめることにした。


参加者は皆、大なり小なり何かしら叶えたい願いがあるのだろう。

取り敢えず、工藤会長と神谷君辺りと関わらないように気をつけないとな。

まず、誰が最初に犠牲になるのか……

一度始まってみないと分からないな。

あと気になったのは、このゲームの仕様として上手く行けば、半分近くの参加者が指輪を手にすることが出来るんだよな。

余りにも入手できる難易度が容易すぎじゃないのか……?

普通だったら生き残った一人とかだろう。

これじゃまるで……


そこまで、考えたところでもう止めることにした。

そして、電気を消して布団に潜り込む。

自分の脳内の電気も消し、推測から目を逸らした……


しかし、その考えはまだ真相のスタートラインにすら立っていないということに気付くのはまだ先の話だ……


その夜、とある少女は……目を醒ました。

彼女が齎すのは絶望か、それとも希望なのか……

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