第5話 場所を考えましょう!

「............ん」


(あぁ......朝か)


 窓から差し込む光を眩しく思いながら、寝起きで重い体を起こした。


(確か......昨日は嬉しすぎてゲームで敵をばっさばっさ舞い殺してたら眠気がきて......そのままベットに......)


 そんなことを思いながら、俺は毎日の習慣で無意識にクローゼットに向かい、制服に着替え始めた。


「今日は火曜日......時間は......七時ちょうどか......いつも通りだな。流石俺の体内時計だ......」


 どうでも良い話だが、俺はどんなに遅く寝たとしても七時に起きれる自信がある。


 まぁその代わりといっちゃなんだが、七時より早めに起きれないのが多い。メリットはあるが、デメリットもあるわけだな。


 中学校から制服を着てきたために慣れているのか、カルディナ学園の制服とか関係なく一分程度でもうブレザーのボタンを閉め始める。


「えーっと......魔法の教科書と......数学と......」


 鞄の中を漁り、昨日の学活で配られた教科書がちゃんと入っているか適当に確認した後、リビングに向かった。


 ───ちなみに、カルディナ学園では日本式のカリキュラムも取り入れられている。


 国語、数学、社会、英語、理科の五教科をやるのは勿論、元々カルディナ学園が行っていた教科もやる。カルディナ学園では主に四教科しかなかったらしい。魔法、戦闘、戦術、商法の四つだ。魔法と戦闘、戦術はその名の通りだが、商法は売り方や接客、数学のように計算、そして国語と同じように語学を学ぶ。


 そのため、他の高校より学習する教科が多い。


 尚、商法に関してだが、計算と語学は数学と国語とほぼ同じようなものなのでその二つはカットし、売り方、接客の二つとなった。


 これだけ教科が多いと教員も多く雇わなければならないだろう。


 やはり、日本人とユーシュラ大陸の人達を混合させた学園を運営するのは難しそうだ。







 ───リビングに行くと、結菜が朝食を摂っていた。


 ちょっと気まずい。が、結菜と向かいの席に腰を降ろした。


 なんたって俺は兄貴だ。怖じ気付いてる訳にはいかない。


「結菜、おはよう」


「......ん」


(まだご立腹の様子で......)


 無愛想に喉だけ鳴らしたような返事を相変わらず綺麗な姿勢でご飯を口に運びながらする結菜は俺と目を合わせたくないのか食べてはテレビを見るのを繰り返している。


「あの......」


「......」


「......すんません」


 結菜に無言で睨まれた。そして、即座に謝罪してしまった俺。


 これじゃ兄貴としての威厳が無い。


(はぁ......許してくれるまで待つか......)


 俺は妹にそんな態度を取られて朝から萎えている心を励ますかのように、何だかんだで結菜が作ってくれていた美味しい朝御飯を掻き込むのだった。









 昨日のように転移ゲートからカルディナ学園まで行った俺は今朝の事でどうしたもんかと悩みながら教室に向かっていた。


 長い廊下の端で様々な種族の人達が談笑している中を黙考しながら歩いている。


 が、しかし。


「はぁ......」


 と、ため息を着きながらふと廊下の端で話している人の方を見ると、ドワーフとウンディーネだろうか? その二人組の男子が明らかに俺の方を見て怪訝な表情を浮かべていた。


 何か異物が入ってきたかのような表情に、困惑してしまう。


 他の種族の人も同じような視線を俺が前を通りすぎる瞬間に送ってくる。


(......え? なんだ......?)


 どこか敵視しているような気がした。


 いや、敵視というよりは異端を見ているような冷たい視線。


 怒り、恐怖がごちゃ混ぜになっているような感じだ。


 ヒソヒソと話しているが、たぶん俺の事だろう。


(ここは......気にしない方が良いよな。日本人がここの国に来るのは二回目だって言うし、珍しいんだろ。でも、どこが珍しいんだろうな......顔立ちとか? ここの人達って白人みたいに堀が深い顔立ちが多いし......)


 妙な視線達を感じながら、教室に着くと


(なんか騒がしいな......朝から元気なこって)


 と、少々扉の向こうから会話で話す程度のものではなく、何処か混乱しているかのような声達が聞こえてくきた。


 俺はそんな風に他人事に思いながら扉を開くと



「おいおい......」


 つい、そう声を発してしまった


 何故なら。





「───貴様......エリス様に易々と近づくな」


「あん? てめぇ昨日からキャンキャンうるせぇんだよ......躾けてやろうか? 駄犬」


「あ、あの......」


 ハインリッヒと青い短髪の大きい体格を持った男子がエリスさんを挟み、互いに睨み合っている構図が出来ていたからだった。


(ハインリッヒ......昨日と今日まで揉め事かよ......お前ほんと懲りないな)


 俺はそう長いため息を着いた。


 = = = = = =


 ガチャ


「「......?」」


 入ってきたのは翔だった。


 口論の最中で一番の注目を浴びた翔は「おはようございます」と平然に挨拶をした後、窓際の一番前の席に座り、突っ伏した。


 口論しているハインリッヒとダンは少し呆けたが、直ぐ様再開した。 


「───駄犬は貴様のほうだ。汚い声を周囲に放つのは止せ。環境汚染になり、これからの生活が不自由に繋がりかねない」 


「お前の無駄に高いプライドで周囲に不快な思いさせてんじゃねえか。はんっ......大体、エリス・ルーベルヴァイン・ジェストに近づいたくらいでキャンキャン汚い声で吠えてんのはお前だろ?」


「何......?」


「いい加減気付けよ。お前がこの空気を一番悪くしてるんだぜ?」


「......そうか」


「お、随分と潔い犬になったじゃねえか。どした? 何が起こったんだ?」


「そこまで言うのなら......」


「は?」


 ハインリッヒは突然胸に着けてあった校章であるバッチをダンに投げつけた。


「これは......!」


 思わずといった表情を浮かべたエリス。


「あれって......!?」


 一人の生徒が驚愕するように口に出すと、伝染していくように誰もが驚愕していった。


「拾え」


 これまでとは打って変わった威圧のある声。


 ダンは投げつけられた校章を瞠目した目でじっと見つめている。


「い、いや......」


「拾え」


 何か否定しようとしたダンに有無を言わさないハインリッヒ。


 極限まで細めた鋭い目付きをしながら、こう続けた。


「どうした? 証明して見せろ。貴様の言い分を......早く拾え」


「......っ」


「さっさとしろ。あそこまで大口を叩いたんだ。貴様に受ける自信があったからだろう?」


「......お、おい」


「黙れ、拾え。拾って、そして健闘するだけの話だ。貴様の実力がどれ程のものか楽しみで仕方がない。公然で私を愚弄し、挙げ句のはてにはエリス様にだらしない笑みを浮かばせながら触れようとしていた。......許せない。貴様も私を許せないであろう? だから拾え。さぁ」


「っ......」



 周囲が息を飲む中で、ハインリッヒに急かされるダンはついに投げつけられた校章を拾おうとしていた。


 不敵に笑みを溢すハインリッヒの目の前で。



= = = = =



「拾え......? 校章を? 拾ってどうすんだ?」


(いきなり投げつけたな......あの行動に意味はあるのか?)


 そんなことを、一連の出来事を見ている俺は先程からずっと考えていた。


(なんか皆すげえ驚いてるし......あれ? 日本人も......? はて......パンフレットに校章を投げたらどうなるのか書いてあったかな?)


 そう思って鞄を漁り、パンフレットを探すも見つからなかった。


(あ、やべ......自分の部屋においたままだったような気がする......)


 嘆息を着くと、俺は今一度口論している方へ目を向けた。


(なんか拾おうとしてるな......)


 しかも、何処か緊張しながら。


 周囲もまた同じで、固唾を飲んで見守っている。


(分かんないな~......)


 そう思い更けながら、とりあえずスマホを取り出し、ニュースを見る。


(......おっ、本堂選手が天皇杯決勝で1ゴール1アシストの活躍......流石本堂。俺も早くあのピッチに立ちたいな~......次はテニスで......なになに~? 岸織(きしこり)が世界ランクが10位に浮上した......すげえじゃん。その調子で日本人の底力見せたれ! あとは───)


 そうスポーツニュースを流し読みしていると、不意にひとつのLINEの通知がきた。


(......? 誰だろ)


 通知をタップすると、宮内 茜のトークが開いた。


(あ、そういえば交換してたっけ。剣道美少女。......それで)


 画面には打ってきたものがあり、俺はそれを淡々と返した。


-------------------------------------


宮内 茜:ごめんなさい! 挨拶遅れました! これからよろしくお願いします!


                こっちこそ遅れてごめん。よろしく:石崎 翔


宮内 茜:いえいえ......


                   友達とは上手く行ってるか?:石崎 翔


宮内 茜:はい! 昨日の夜に新しく出来た女友達とずっとLINEしてたんです!


                       そうか。良かったな:石崎 翔


宮内 茜:(*≧∀≦)


宮内 茜:石崎君の方はどうですか? 友達とは上手くいってますか?


うーん。現時点で言うと宮内さんしか友達できてないからなんとも言え:石崎 翔

ん笑


宮内 茜:え、それじゃあ私が石崎君の初友達ということですか!


                   まぁ、そういうことになるな:石崎 翔


宮内 茜:へぇ、なんか意外です! 石崎君友達凄い居そうな感じがしてたので!


俺がリア充に見えたということか? ないない。イケメンに言うべき言:石崎 翔

葉だぞ


宮内 茜:え、石崎君優しそうな顔してて背も高いですし、話しやすいです!


        知ってるか? 優しい人ほど怒ると怖いって言うやつ:石崎 翔


宮内 茜:やだな~誰でも怒ると怖いですよ? 優しい人ほど怖いというのは普段とは全く正反対だからだと思います。後、なんだか石崎君が怒ってる姿が想像出来ません笑


まぁな。俺、これまでで三回しか本気で怒ったことないし。今になると:石崎 翔

怒鳴ることさえ抵抗がある これから先怒ることが何回あるんだろうか


宮内 茜:えっと......一日三回ですかね


おい、一日三食みたいに言うな。てかそれだったら凄い短気じゃん。や:石崎 翔

だよ? そんな人になるの


宮内 茜:ふふっ。冗談です。石崎君は余程のことがない限り怒りませんよ


                        いや断言されても:石崎 翔


宮内 茜:あくまで予想です笑 気にしないでください


                       ん。りょーかいした:石崎 翔


             それよりさ、聞きたいことがあるんだけど:石崎 翔


宮内 茜:はい?


     相手に校章投げつけるとどうなるの? てかなんかあるの?:石崎 翔


宮内 茜:えーっと......パンフレットに書いてあったのですがうる覚えでい

     いでしょうか?


                              おう:石崎 翔


宮内 茜:確か......その場で決闘になるとか......


                              は?:石崎 翔


宮内 茜:いや、だからその場で決闘に......


                           ......は?:石崎 翔


-------------------------------------


(その場で決闘 その場で決闘 その場で決闘......その場で......?決闘だと......?)


 スマホを片手に何度もその言葉をリピートした。


(ここは教室。その場で決闘..........................................ッ!?) 


 俺は思わず勢いよく立ち上がり、今日一番の大声で叫んだ。










「決闘禁止ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッッ......!!!」


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異世界学園の日本人─亜人や獣人達に戦闘技術知識共に劣るが努力で抗う─ 水源+α @outlook

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