第42話 第六章 1-4

身体をいましめる重いかせは優雅な寝台やその他の調度品と酷く不釣り合いに見えた。

蝋燭ろうそくの灯りに艶やかに光る白絹の上を、冷たく太い鎖の蛇がのたうっている。


身体が震えた。

この場所には何もない。

シンルが愛する何もかもが、

シンルを愛する誰もかれもが、

この場所には全く存在しないのだ。


乾燥しささくれ立った足が、きめ細かく滑らかな絹の上を滑る。

とろみのある、生地は酷く冷たかった。


シンルはバタバタと足を動かし寝台を蹴った。

早くこの場所から逃れたい。


柵に絡みつく鎖を引っ張った。

ガシャン、ガシャンと派手な音を立てて金属と金属がぶつかる。

いくら力一杯引っ張っても、柵はびくともしなかった。

握る手の中に、行き場の無くなった力が熱となってこもって行く。


……と、暗闇の向こうから、小さな音が聞こえた気がした。


音。

……他人の気配だ。


カツン、カツン、カツン、カツン……。

こちらに向かって近づいてくる。


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『nÓg-ノーグ-』 七 文 @723-nanafumi

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