第3話僕と神童鳴海 下

そもそも神鳴団とは。

革命家を名乗る男、神童鳴海を中心に構成された革命軍団のことである。その団員数はたったの9人。しかしたった9人で国の法律を変えるという前代未聞の事件を起こした。ちなみに変えた法律は成人になった男性は全員兵士としての訓練を1年間行わなければならない、という法律。これには国中の人間も彼らの偉業に感謝し褒め称えた。

と、うまくいかないのが現実である。そもそも革命家とは名ばかりで、彼らが起こす事件はショッピングモールやテーマパークを占拠したり、首相への特攻など暴力的なものがほとんど。死人こそ出ないものの、彼らの活動に巻き込まれ死にかけた人なら数えきれないほどいるだろう。そんなわけで法律を変えてくれたことには感謝されているものの普段は『暴力団』として恐れられている、というのが現実である。


そんなめちゃくちゃな人がいきなり自分の通う学校の自分のクラスの自分の席に座っていたところで別に驚きはしない僕だった。

「そうかそうか、じゃあまた来ても大丈夫だな」

「おい」

「じゃあ毎日来ることにするよ。仕方ない」

「あんた暇すぎだろ……」

やっぱり学校には行ってないらしい。

現在放課後。テニス部に所属している僕は、校舎から離れている活動場所に向かおうと校舎を出たところ、どうやら待ち伏せしていたらしい神童に声をかけられ、一緒に活動場所に向かっているという状況だ。

「冗談じゃないですよ…。もう2度と来ないでください。さっきだってみんなから変な目で見られて言い訳するの大変だったんですよ」

ちなみに朝の出来事で僕はみんなに「彼は僕の忘れ物を届けに来てくれたお兄さんだ」と説明し、なんてか納得してもらえた。

「人間なんて他人を外見と性能しか見ない生き物なんですから。ヤクザみたいな友達がいると思われたら最悪ですよ」

「…ほう。随分と他人に対して厳しい感想を持ってるんだな」

「そりゃあ持ちますよ。人間大嫌いなんで」


僕の言葉に神童は興味を持ったらしく「嫌いなのか」と聞き返す。

「嫌いですね。英語よりも」と僕は繰り返す。「友達は多い方ですけど」

「嫌いなのに作るのか?」

「さっき説明したでしょう。『性能』づくりですよ。まぁ僕は友達なんて5人くらいがちょうどいいと思いますけどね」

「なぜ?」

「みんな同じことしかしないからですよ」

僕はこの考えを初めて他人に明かした。

「誰と何をしても結局同じような結果に終わるんです。確かに遊んでいて楽しい。一緒にいるだけでもね。だけど誰といたところで、誰と話したところで、みんな同じことをする。同じことを話す。僕はそんな気がしてならない。何より一番僕が嫌なのは


他人と話していて何も学べなくなるってことなんです」


「それならますます仲間になることをお勧めするぜ」

僕の話を聞き終わった瞬間、彼はそう言った。さすがに何か意見を言ってくるだろうと身構えていただけに拍子抜けしてしまい、「は?」と聞き返す。

「いやさ、俺見てわかると思うんだけど俺の仲間たちもかなりの変人だからさ」

どうやら自覚はあるらしい。

「一緒にいて退屈しないと思うんだわ。きっとお前みたいなやつにとってあいつらと話すのは楽しいと思うしさ」

本当なのだろうか。僕は考える。本当なのだとしたら僕にとってこれほど魅力的なことはない。

「一応考える気にはなってくれたみたいだな」

そんな僕を見て神童は満足げにうなずき、「じゃ、部活がんばれよ」と僕に背を向けた。

「帰るんですか?」

「いや、お前の部活終わるまで暇つぶして待ってるよ」

「結構長いですよ」

「心配すんな。俺が考えた究極の暇つぶし技『小枝拾い』して待ってるから」

……部活終わるまで(あと3時間)延々と枝を拾い続けるのか。さすが『革命家』である。関係ないけど。てかマジで小枝拾い始めやがった。

友達どころか知り合いとも思われたくねぇ……。


神童と別れた僕は、テニスコートのある活動場所に行くと同じ部活に所属している中田大樹と会った。1年でレギュラー入りした努力家のプレイヤーである。中田は僕の顔を見るなり「今朝は大変だったな」と声をかけてくる。

「ほんとだよな」と僕は笑って応じる。長年使ってきた作り笑顔だ。

「でもみんなが騒ぐのも仕方ない。人気者であるお前の所にヤクザみたいなやつが来たら誰だって混乱するし、心配もするさ。特に横山とか一番混乱してたよ」

「横山はしっかりしてるように見えて案外すぐ慌てちゃうからな」

「いや、そういう意味じゃなくてだな……」

「?」

そういう意味じゃなければどういう意味なのだろう。

「…まぁなんだ、それにしても随分かっこいい兄ちゃんだな」

「ん?そうか?」

「うん。何も隠そうとしないというか、何をするにも躊躇しないというか。なんだろうなぁ」

中田は続ける。


「俺たちとは違う生物って感じだったなぁ」


僕はその言葉を聞き、ひどく動揺してしまった。



部活が終わり、神童の所に向かう途中僕は中田の言っていた言葉について考える。

僕が神童のような人間が苦手なことは間違いない。しかし、神童と話している間はほとんどストレスを感じなかった。となると自分と神童は同じタイプの人間なのではないか、と考えたのである。今思えば、出会って2日で誰にも言ったことがなかった自分の意見が言えたことも不思議といえば不思議である。


しかしそうではなかった。


しばらくして僕は神童を見つけた。数十人の男たちに囲まれている。彼の足元にはすでに8人ほど男が倒れているので喧嘩が始まってすでに何分か経っているようだ。

「お、来た来た」

神童がこちらに気付き「おーい」と手を振ってくる。

「なんか枝拾ってたら絡まれちゃったよ。ちょっと待ってろ。5分ぐらいで片づけるから」

「し、神童さん!!」

僕は慌てて声をかける。

「逃げましょう!近くに交番あるんですよ!通報されたらどうす」

「知らねぇよんなこと!!」

僕の声をかき消すように彼は叫んだ。

「大体お前周りのこと気にしすぎなんだよ!そんなんじゃ楽しめねぇに決まってんだろ!そんな簡単に嫌いって言われちゃあ言われる方もたまったもんじゃねぇよ!」

彼は叫び続けた。

「後のことしか考えてねぇような奴が今を楽しめるわけねぇじゃねぇか!!」

神童は叫びに任せて男たちを殴り続ける。


同じタイプだなんてとんでもない間違いだった。


彼は僕と全く違う人間であり、


いつでも自由にふるまえる彼がうらやましくて、


尊敬するようになっていたのだ。




男たちが全員倒れたのを見届けてから僕は神童に近づく。神童は何もなかったかのように笑う。


僕は-----------------------



「あなたのような人になりたい」


そして頭を下げる。


「僕を仲間に入れてください」



俺の稽古は厳しいぞ、と神童は嬉しそうにそういうのだった。

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僕と革命軍団の愉快な日常 覇丸 @20170318

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