超能力者

超能力者

　すみませんすみません。わたくし怪しいものじゃありません。え？ 怪しい奴はみんなそう言う？ もっともですね！

　いやいや、ちょっと待ってください！ 通報しないでください！ わかりました！ 本当のこと言います！

　実は、私、超能力者なんですよ。時間を7秒だけ止めることができるんです。先ほど、あなたが車に轢かれかけていたので、ちょちょいと。救った的な。

　……え？ 7秒だけなんてスケール小さいなって？ そこですか。その通りですけども。超能力に関しては否定なさらないのですね。いやいや、その柔軟性、大変素晴らしいかと思います。はい。

　まあ活用する機会が少ないのは認めますけどね。でも7秒だっていろいろできますよ？

　あ！ 今あなた邪なこと考えましたね！ 顔に似合わずスケベなんだから。

　でも残念。夢を壊すようですが、7秒くらいじゃ何もできませんよ。……ん？ さっきいろいろできると言っていた？ それとこれとは別なんですよ！

　うまくできているもので、能力の連続使用はできないんです。一度使うと、7秒のインターバルが必要で。

　あなたが想像している用途だと、せいぜいスカートめくりをするくらいが限界ですかね。それも眺める暇なしに逃げないとダメ。私なら脚力に自信アリなので、7秒あれば、あっという間に逃げられますけど。

　さては試したことあるなって？ ないですないです！ この能力が中学生くらいで目覚めていれば、わからないですけど。なんちゃって。

　悪用できないなら、せめて善いことに使いたいでしょ。善用ですよ。善用。

　いやいや、そんなお礼なんていらないですよ。珍しいですね、あなた。普通の人は、まるで犯罪者を見るような目で立ち去っていくのに。

　あ！ ほんとに大丈夫です！ そんな！ 自販機でジュースもいらな……

　あー……気づいちゃいました？

　そうです。私、助けた人から、ちょっとばかりの報酬をいただいてるんです。

　いつもインターバル後に、再度時間を止めて、抜き取るんですけど。あなたの場合、財布を見つけるのに手間取っちゃって。

　念のため言いますけど、助けた後以外で失敬したことは一度もありませんよ？ もらうお金も、お札一枚だけってのがポリシーです。いいでしょ、どこぞの三世みたいなこだわり。

　千円札が常で、万札なら万々歳。札がなかったら無料サービス。そうそう、この間なんて二千円札持ってる人がいて！ ……聞いてないって？ 冷たいですねえ。

　ああ！待って待って！ 通報しないで！

　よーく考えてみてください。事故になったら諭吉さん一枚じゃ済みませんよ？ 運をお金で買ったと思ってここは、一つ！

　……そうですか。仕方ありません。

　逃げるのかって？ いや、逃げる必要は、ないですよ。言ったじゃないですか。7秒あれば充分だって。

　全て、なかったことにすればいいんです。