ACT110 どうしようもなくダサい

 売れてなんぼ。これは芸能界の真理ともいえる。

 だからって……だからって……、あんまりだ。

 私たちの正式なデビューが決まった。

 今回のデビューのきっかけとなった『お笑い革命~至高の笑い発信基地局~』での発表となった。

 今まで保留となっていたグループ名や曲のタイトルの発表などを一気に行うとのこと。


 ちなみに私を始め、真希、MIKA、HIKARUの四人は何も知らされていない。

 テレビ局に入ってから発表があることを聞いた。

 何でそんな重要なことを当人たちに知らせないのか。

 怒っていいよね? 私、怒ってもいいのよね?

 だが、私は思い出す。

 あっ、ここ芸能界だった。


 そう、ここは芸能界。

 理不尽な状況ばかりの世界。

 だまし討ちなど日常茶飯事の世界なのだ。




 そんなこんなで始まったスタジオ収録。

 司会の晩春さんが大袈裟な身振り手振りで客を煽る。


「今日、ついに四人のグループ名が決定します!!」


「晩春さん。こんな大々的にしてもらわなくても事務所のホームページとかで勝手にやりますから」


「なんや、結衣ちゃんは冷めとるなぁ。ゆとり……いや、悟り世代いうヤツやな」


 自分が○○世代という括り――型に押し込められるような気がして、正直受け入れがたかった。

 それでも私は笑う。

 それが私の仕事だから。

 真希なんかは思いきり顔に出しちゃってるけどね。


 晩春さんは、いつも通りの安定感でつつがなく番組を進行する。


「ほな、みんなのグループ名は一番最後、メインディッシュということで、まずはシナモンの二人、取りあえずお前らのコーナーでもやっとき」


「ちょっと晩春さん!? 俺らのコーナー繋ぎで使わんといて!」


 観覧席からは笑いが漏れている。


「お客さんもなんで笑ってんねん!」


 今度は大きな笑いが起こった。




 番組も佳境。


 今をときめく芸人たちのお仕事ぶりは、さすがの一言である。

 バラエティーという仕事場において、彼ら彼女らの力は計り知れない。

 そしてついに番組最後のコーナー。


 紅白出場できなきゃ引退という無茶苦茶な企画。

 晩春さんが「余興はここまで」と一流芸人たちを前座扱いすると、スタジオが拍手に包まれる。


「今日のお客さんはあかん。もうやる気なくしてもうた」

「ほんまや、今日の収録二時間が前座とかありえへん。お客さんもよう二時間の前座に付き合うなぁ。俺やったら帰ってまうわ」


 平気で客すらいじる。

 私にはできない。ファンは大切にするものでいじるものではない。


 番組は一時間。

 収録は二時間。撮れ高というものがある。

 編集を経てお茶の間に番組は流れている。

 スタジオは終始笑いに充ちていた。

 しかし放送されるのは半分だけ。なんとシビアな世界なのだろう。

 そんな中でも、私たちは確実に放送される。

 芸人さんたちにはちょっと申し訳ない……なんてことはない。

 よくよく考えればCDデビューに紅白出場とか無理難題言われているのだから当然のことと言えるだろう。


「えっと、今日は紅白を目指すみんなのグループ名を決めるっちゅうことやったな。何がいいか朝から考えとった」


「え? 晩春さんが決めるんですか!?」


「そうやで。聞いとらんか?」


「「「「聞いてないですよ!!?」」」」


「お、見事なシンクロやな。これなら紅白いけそうやな」


 他人事の晩春さんは楽しそうだ。

 当事者は一切楽しくない。


「っていうか、晩春さん、今日の朝から考えてるって、そんな適当にグループ名決める気ですか!?」


 私たちの避難の声など気に留めることなく、晩春さんはグループ名を発表する。


 ドラムロールが鳴る。


「発表はCMの後で」


 みんな一斉にコケる。

 集団芸である。

 これには私たちも参加せざるをえない。

 なんだかんだ言ってバラエティーにも慣れてきたなと思う。


 CM明け。


「ほな、みんなの名前は〈売れてなんぼ〉で。曲のタイトルも同じでええやろ?」


 ノリ軽っ!?

 しかも名前ダサ過ぎる。

 仮にもトップアイドルと女優のグループの名前としては相応しくない。

 それに、新田結衣のデビュー曲が〈売れてなんぼ〉とかイヤすぎる。


 けれど、この部分はカットされることなく、放送されてしまった。

 世間で私たちが〈売れてなんぼ〉と認知されるのにそう時間はかからなかった……マジ最悪。

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転校生は朝ドラ女優!? 小暮悠斗 @romance

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