第二回会談
追加の蝋燭を持ってこさせ、α星の五大国の評議員がまだ秘かに会談中である。
「あの機体、一機だけでもこちらのものに出来ないだろうか」
エヴァリースの評議員が頭を抱えながら言い出す。
「それは難しいだろう。よもや手に入れてみたところであの操縦士たちの、機体を操るレベルの高さがあったからこそ、あれほどの強さを発揮できたのだ。けっして装甲の固さだけではあの強さは語れないぞ」
チュンコワの評議員が、分析してみる。
「科学技術が後百年先に進んでいれば、何とか互角に持ち込めるものを…口惜しい!」
ファルローザの評議員はまだ敗戦の現実を受け入れられないようだ。
「これからどうなるのだろう」
ラスロの評議員が、現実に話を戻す。
「歴史を紐解けば首長の処刑、女どもの強姦、財宝の強奪とやりたいほうだいだ。こちらはそれを指をくわえて見ていることしか出来ない。わしらも覚悟せねばならないだろうな」
エンクレットの評議員も絶望的な言葉を漏らす。
そこへ皆にカツを入れるべくファルローザの評議員が勢いよく話しだす。
「皆、それでよいのか。まだ陸軍がある。最後の一兵になるまで戦うのがファルローザの誇りである!」
評議員の目は興奮して吊り上がっていた
こちらは日本船内…
実際、本当に占領するとなると莫大な数の陸軍兵士がいなくてはならない。しかしこちらは陸軍が存在しない。日本船の艦長はその件で、頭を悩ませていた。
「どう対処するつもりだね、アーク」
アークと呼ばれた男、アメリカ船の艦長が、思案顔で答えていく。
「こちらの船が降り立つ前に徹底的に武装放棄させる。戦闘機の数から察するに戦車は百両ほど、装甲車も同じくらい。歩兵の銃は一万あるかないか…とにかくこれらの装備のリストを各国に提出させる」
「それから?」
「そのリストを元に嘘か本当かを見極めていく。もし嘘だった場合軍事施設に限定的な空爆を加える。これを繰り返す。まずそこまでが第一ポイントだ」
「リストはどうやって作成するんだ。話し合いは翻訳機があるから問題ないが、文字を翻訳するのは不可能ではないのか?まず辞書がない。あまりアバウトにしておく事項でもないぞ」
「では装備について詳しい者を船の中まで呼びつける。そこで直に談判をすればいい」
「農作物などを三割納めさせる案はどう思っているんだ」
「あー、あのえせ教皇様の言っていた年貢の事か。それは今年からでもやらなければならないだろう。しかし、一万人の胃袋を満たすのは容易な事ではないぞ。今はレトルトで賄っているからいいものの後二年はもつまい。専門の働き手がかなりいることは確かだ。人間の仕事というものはとどのつまりどうやって飯を食うのか、だからな」
そこで話はピタリと止まってしまった。二人ともそれ以上のアイデアは持っていない様子だ。
「飯を食う方のアイデアは実際にレトルトがなくなってからでよかろうよ。ハッハハ。今考えなけりゃならないのはどうやれば各国軍隊の装備の真贋を見極める方法だよ」
ドイツ船の艦長が、話に割り込んでくる。
「ここだけの話だが…こちらには過多とも言われる程の自白剤が手元にある。これを話し合いにきた代表に投与させて貰う」
「自白剤なんて…そこまで大袈裟なことをしなくても」
日本船の艦長が反論するが、イギリス、フランスの艦長も話に加わり、四対一で決まってしまった。
「最初だけだって、そういう人道に反するような事をするのは。とにかくまず生きてゆかねばなるまい」
アメリカ船の艦長が、日本の艦長をいさめる。
艦長は少しだけ睡眠をとるべく、自室に戻っていった。
翔馬は宇宙空間にポッカリと浮かびながら、銀河を眺めている。翔馬も次のステージの事をぼんやり考えている。おそらく次はどうやって征服していくかの、第二回目の会談がもたれるだろう。
無限に大きい天の川だが、それすら今は小さく思える。空間変位で光りの早さを楽々と超えたからだ。この銀河の中心部には大きなブラックホールがあるという。それにつかまれば素粒子まで圧縮されるらしい。宇宙の仕組みについては全く理解不能だが、そういうどうでもいい事をぼんやりと空想する癖があり、たびたびミラに怒られる。
今は次の交代まであと二時間、居眠りをしないように見張ってゆくしかない。
エヴァリースの大統領だが、やはり先程の大統領官邸の空爆により、命が尽きたようだ。エヴァリースの評議員が大統領代行となる。
第二回目の会談が行われる。向こうは五大国の全員がカメラ前に陣取る。それがキッズルームの巨大モニターに写し出される。
雪菜が心配そうにモニターを見つめる。翔馬の行方が全く掴めないからだ。実は薄々感づいている。確か一人の時はずっとフライトシミュレーションをやっていたはずだ。世界ランクも四位だったのは記憶している。宇宙で戦っているのは実は翔馬ではないのか…そう思うと、いても立っても居られずに寝床へ帰り、達彦に聞いてみる。達彦はあっさりと答える。
「そうだよ。雪菜さん聞いてなかったの?」
日本機の活躍が目覚まし過ぎて現実的ではなかったからだ。
改めて巨大モニターを見つめる。撃墜した数などどうでもいい。とにかく無事に帰ってくるのを祈るばかりだ。
おごそかにエヴァリースの評議員が息を整える。
「これより第二回目の会談を執り行う。皆それぞれの部署に着くように」
「まずいきなりではあるが、こちらとしては完全な武装放棄を要請する。それが確認されなければこちらとしても。次の手がある」
アメリカ船の艦長が、武力による占領をほのめかす。
「完全な武装放棄とは?」
エンクレットの評議員が尋ねる。
「戦車ならびに装甲車、歩兵が所有する銃まで一ヵ所に集めて全て焼き尽くすのだ。大変な時間と労力がかかろうと二年を目安にやり遂げる。これが一つ目」
アメリカ船の艦長が答える。
「同時に麦や野菜、肉などを全て三割こちらがいただく。これが二つ目だ。とりあえず今はこれしか言えない。どうだ、実現可能か」
五大国の評議員がマイクを横に向け、ひそひそ声で話し合う。
「とりあえず首長の処刑がなかっただけでもよしとしようではないか。次の手はこれから考えるとして」
ラスロの評議員が答える。
「ふたつの約束事、引き受けた。陸が平らな駐屯地も用意しよう」
ラスロが平らな土地をレーダーで指し示す。
そのレーダーを見てフランス船が、まず見てくる。縦横二十キロというちょうどいい草原である。
「まずは場所を確認した。五隻がまとまれてちょうどいい広さだ」
残りの四隻もしずしずと移動してくる。円陣を組むように場所取りをする。
この位置で一旦停止をする。しかし降りてこない。エヴァリースの評議員が不審に思って聞いてくる。
「いい場所だろう。なぜ降りてこない」
「こちらが完全に着地するのはそちらが約束を全て履行した後だ。こちらにはまだ十分なレーザーエネルギーがある。そちらがどうやって処分するのか困っているのなら、こちらで解決してやる。先ずは手始めにどこの国が何両の戦車や装甲車を持ち、どれくらいの銃を所持しているか申告してもらう。その上でその真贋をはからせてもらう」
アメリカ船の艦長が、慎重に言葉を選ぶ。
「先ずはここ、エヴァリースだ」
空間変位機を使って、アメリカ船から特使が出てくる。この草原に張っていた記者達が壮絶なほどのフラッシュを浴びせかける。宇宙人の正体をカメラに納めるためだ。
そこにエヴァリースの評議員が登場する。身長1m2.30センチほど。頭部がよく発達し、薄手の宇宙服のようなつなぎを着て、いかにも知的生命体らしい外見をしている。
「ヘイガイズ!ハッハ」
アメリカ機が上機嫌で戻ってきた。交代の時間だ。12時間はさすがに長かった。翔馬が一度戦闘があったと、かいつまんで説明する。そのあと、二回目の会談があったと地上で起こっていることも伝える。
「完全な武装放棄か…まず無理だろうな」
ドイツ機が冷ややかに呟く。
「それじゃあ、俺達は睡眠を取ってくる」
「ついでにおむつの交換もな。ワッハハハ」
エヴァリースにある日本船に近づくと、こちらもフラッシュがたかれているのが見える。
エヴァリース上空で空中戦が行われているらしい事は、α星全国で報道されていたのだ。当然敗走したことも。それだけに一騎当千のUFOとはどのようなものかと注目が集まる。
まずはその鏡のような塗装を写真に撮られる。
翔馬はいそいそと日本船に帰っていく。
「とにかく腹が減った。寝たい」
こう呟きながら風呂場に向かう。十分に体を洗った後、洗濯機から洗い立ての衣服を取りだし、ふたたび身につける。
食堂でカツカレーを食べていると、記者らしき人間にインタビューを受ける。まあ、実際はSNSなどに投稿するためだが。しかし一つの記事が波紋に波紋を呼んで食堂辺りは人だかりでいっぱいになった。
何とかカツカレーを食い終わると、コーラを飲む。それがまた記事になる。この繰り返しである。翔馬はいっぺんに時の人となった。
また寝床に帰ると扉を開ける。
「睡眠するのも仕事なんで、十メートル以内に近寄らないで貰います」
扉をガシャりと閉めると雪菜が仁王立ちだ。
「あなたはどういったご関係でしょう」
「婚約者です!」
翔馬は驚いた。薄々両思いかなとは思っていた。それがこんな形で結実するとは。
寝床には最新の時計が据え付けられており、アラーム機能も搭載されている。それをセットし、眠りにつこうとするが、先程の事で感情が高ぶって寝入る事ができない。
結局眠りについたのは三時間もしてからだった。
午前三時にアラームがなる。翔馬は静かに寝床を出ていく。食堂で餃子のパックを二つ取りだし、F-70を格納してある空間に生体認証を使って入る。トイレに行き大小便を済ませると大人用のオムツをはき、替えをもう一枚準備する。
簡易宇宙服に着替えてインカムをセットする。ヘルメットを被るとクルー達へゴーサインを出す。扉が開く。まだ夜で真っ暗である。仲間が待っている場所へと出発する。
アメリカ機とドイツ機が待っていた。そこに少し遅れてフランス機が合流する。
これからは空中戦に備えるのではなく、戦車などの陸上戦闘車両に目を光らせろという事であった。
引き継ぎはこれだけである。
戦闘が無くなっただけでも、よしとしなければなるまい。警備はそれなりの神経を使うが、やったやられたの世界よりもましである。
「ヘイショーマ、よく眠れたかい?」
フランス機が聞いてくる。
「いやいろいろあって三時間ほどだよ。そっちは?」
「俺はもう少し取れて六時間弱だ。体力勝負だ。締まって行こう」
翔馬は改めて運転席を眺め回す。すると、右手奥に50センチほどの穴が開いているではないか。
試しに餃子を食い、スイッチと思われるボタンを押し、その穴の中に残ったパックを放り込んでみる。「ファン」という音と共にどこかへ消えていってしまう。やはり極小サイズの空間変位機らしい。このシステムのおかげで、ゴミ問題はいっきょに解決する。
「ミニッツよ。この警備の仕事は何年単位になるだろう。続けられるかい」
「いやー後少し落ち着いたなら三回交代制にするつもりだよ。時差ぼけがひどい。これじゃあ警備の仕事もおろそかになる。そうは思わないかいショーマ」
「だよな。俺もあと一人、フライトシミュレーションで上位だったものを探して二交代制にしてくれるように艦長に掛け合うつもりだ」
早くも朝日が登り始めた。惑星αは一日二十時間程のようだ。体が慣れるのに時間がかかりそうだ。
機体を母船の方向に向けてピタリと静止する。退屈な時間が過ぎていく。
話は前後する。
アメリカ船の特使は翻訳機とつながっているインカムを装着し、戦車の数などに詳しい者をこちらによこすように伝える。エヴァリースの評議員もその要求を飲む。何やら無線電話のようなものでやり取りを始めた。
しばらくすると、車に乗って一人の男がやって来た。軍事を統括する、それなりの階級の者であろう。こちらも軍服と思われる白いつなぎを着ている。胸には勲章が所せましと並んでいる。原住民にしては大柄な男である。
アメリカの特使は二人を連れて母船に案内をする。するとアメリカの船が地上に降りてきた。出入口が開く。エヴァリースの評議員が無尽蔵とも思える食料を前にして驚嘆している。
やがて運転室を経て艦長室に通される。アメリカ船の艦長も少し緊張気味である。
ふたりにインカムを装着してもらい、翻訳機と無線で繋ぐ。
「これから本当の第二回目の会談を行う。準備はよろしいかな」
艦長の威圧的な態度に多少の恐怖を感じながらも応ずるしかない二人であった。
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