エースパイロット
翔馬がアメリカ機の横に出る。
「大量に出たかい、ハッハッハ!」
アメリカ機が翔馬を少しおちょくった感じで迎え入れる。いい意味でも悪い意味でも、いかにもアメリカ人ぽい男である。
次の休憩はイギリス機の様だ。母船の方に戻っていく。
目にする敵機がいない。レーダーを調べても見当たらない。翔馬はインカムをチャンネル9に設定する。艦内放送が聞こえてきた。
「戦局は小康状態に入っている模様ですね」
「ラスロと思われる大編隊を見事に退けましたからね。後は、チュンコワかファルローザ辺りが来るのではないでしょうか。そら、噂をすれば何とやらですよ!」
「翔馬くん。ぼーっとしてちゃダメよ。翼の中に人が居て、機銃してくる巨大機が、二時の方向に現れたわよ」
チュンコワのだろうか。確かに戦闘機としてはでかい。機銃照射は翼の中からしており、左右三カ所づつ計六カ所から無差別に撃って来る。
翔馬は機関銃を無視して、運転席を狙う。レーザー砲を三発も食らわすと燃料タンクにでも当たったのか、大爆発を起こしてα星の片隅に落ちて行ってしまう。
巨大戦闘機など前時代の遺物もいいところである。後四機出てきたが、翔馬の「運転席を狙え」という指示のもと、皆撃墜していく。
「チュンコワと思われる敵の大型機五機を宇宙のチリにした手腕、お見事でした!もう日本機がエースパイロットだと言っても過言ではないでしょう!」
チャンネル9のアナウンサーが誉めちぎる。
「後出て来るとすればファルローザ辺りでしょうか。その攻防をもって一旦お開きにしたいところですね」
「そうですね。パイロットの消耗も限界に近いでしょうからね」
その頃、ファルローザの大編隊がエヴァリースの空母に続々と集まりつつあった。給油が終わった機体から戦場へと向かう。
「来ました!やはりファルローザの様子です。しかし皆ノーマル機です。これなら問題ないでしょう」
ファルローザの戦法は小編隊を組まない事のようである。全ての機体が単独で攻めてくる。編隊を組まないほうがかえって煩わしい。翔馬は追尾してくる敵機をとんぼ返りして前に追い詰め、撃墜する。今度は多少長い戦いになりそうだ。
翔馬はまたもや他の機体からつけ狙われる。すると激しい衝撃とともに宙に舞ってしまった。何が起きたか分からなかったが、計器を見てみると通常通りである。ジェットの噴気口をやられた訳ではないらしい。速度を一気に落とすと敵の後ろに着く。よく見ると翼の下にミサイルを搭載しているではないか!ノーマル機と思ったがとんでもない。装甲は破れないだろうがまともにヒットすればその衝撃は半端ない。
翔馬は操縦席に座り直し、シートベルトを着用する。多少敵機を舐めていた。気を引き締めなければならない。追尾している機体にレーザー砲を撃ち抜く。煙とともに星に沈んでいく。
「ノーマル機と思っていたら違いましたね。ミサイル機のようでした」
「ミサイル機にしろノーマル機にしろ後ろを取られるのはマズイですね。エンジンの噴気口が唯一の弱点ですからね」
「危ないところだった」
翔馬は汗を拭う。
「どんな敵でも油断しない事ね。再び来たわよ!六時の方向」
またけつに付かれる。全員が後ろを取るのが上手い。翔馬は一気に速度を上げ、半回転し、正面から挑む。ロックオンするとレーザー砲を放つ。敵機は木っ端微塵に大破する。
ここでイギリス機が合流する。アメリカ機が「少し早くはないのか」と聞いても「大丈夫だ」としか言わない。入れ替わりにフランス機が休憩を取る。
七時の方向だ。しかし、他の機体がバラバラにいるので視認しにくい。ぐるりと機体を回しながら少し遠いが、ロックオンし、ショットする。また敵の命が儚く飛び散った。
「また七時の方向よ翔馬くん。気をつけて!」
さすがに自らナンバーワンと自負するだけある。強い!編隊をとらなければならない等々いっさいの定石を捨てる柔軟さ、さらに敵の弱点を見つけるとそこ意外狙わないクレバーな戦術、スピード、練度、全ての意味においてこちらを凌駕している。ただ一つ機体の脆弱性だけを除いて…
翔馬は再び七時の方向に回転する。敵がミサイルを発射する。間一髪でかわし、レーザー砲で敵を葬る。
その時である!艦内放送が信じられない事を告げる。
「あー、なんという事でしょうか、先程休憩から復帰したばかりのイギリス機が大破した模様です!しかしまだ事実確認は取れていません。追って報告したいと思います」
翔馬は耳を疑った。翔馬とは少しだけ言葉を交わしただけであるが、愛する人を守る為という価値観を共有していた仲間だ。
ドイツ機がその様子を見ていたようだ。しかし今はそれどころじゃあない。一時の方向の敵機を追いかけ回している。
(俺も同じだよ。お互いにやり遂げよう…)
「うおー!!!」
翔馬の怒りは極に達した。敵を見つけては撃墜し、見つけては撃墜し…
いくら死を覚悟している軍人でも、情もあれば喜びもある。そして愛する人が居る。今の翔馬には全てが受け入れられないものであった。
呆然としてまだショットボタンを連打している。いつの間にか涙を流していた。今の状態で立ち止まっているのはまずい。この戦線を大きく眺めるべく全速力で一周してみる。ファルローザと見られる機体はあと十機程だ。翔馬は近場の敵機から崩して闇に葬る。
少しづつ立ち直っていった。艦内放送の解説が入る。
「無敵と思われるF-70も攻める力が強すぎて乗りこなして攻めている内はいいんです。しかし、攻め手が強ければ強いほど敵機をあなどり無敵幻想を描いてしまうのが戦闘機のパイロットというものなのです。おそらくイギリス機のパイロットは強い責任感の持ち主で休憩もまともに取っていなかったのではないでしょうか。そこにファルローザの機体が後ろに着いても、気づくのが一歩遅かった。そんなところではないかと…」
翔馬は戦線にもどる。ドイツ機が、心配したのか声をかけてきた。
「イギリス機の最後は見事なものであった」
「ああ、俺も少し取り乱したが、もう平気だ。心配をかけて悪かったな」
「なーに、お互いさまだ。後少しでキリがつく。それまで集中していこう!」
そのすぐ横をアメリカ機が敵機を追いかけ回している。二人とも現実に引き戻されクスリと笑って二手に別れる。
翔馬はぼんやり飛行中の敵機の下に沈み、近づいてから突如姿を表す。敵が驚いてアクセルを踏んだ瞬間に攻撃を仕掛ける。
翔馬のショットが、向こうのジェット部分に当たり大爆発をする。
あと五機、ドイツ機が敵機を追っている。正確に追尾し、レーザー砲を放つ。また一人、宇宙のチリと化す。
あと四機、アメリカ機が正面からレーザー砲だ。ラストも近い。もう一機づつ仕留めれば終わりだ。
三機、二機、…ラスト一機は日本機が担う。いつものように後ろに着く。と思えば、そこから一気に上昇し、敵機の上を叩く。ファルローザの最後の一機は煙をあげながら惑星αへ落ちていく。
ここでアメリカ機からの提案である。
「いま二時間の休憩を取っても往復の時間や食事の時間など、諸々あって実際一時間弱しか休憩出来ないはずだ。そこで次からは12時間交代制に切り替えたい。どうだ?」
ドイツ機が賛成をする。翔馬も意義なしだ。
「それじゃあ、最後になった俺と、最初の休憩を取ったドイツ機がフランス機の交代と同時に休憩をとる。異議はないな」
「異議なし。睡眠を取りたいしな」
「こちらも意義なしだ。二時間程度ではろくに飯も食えないからな」
翔馬が答える。
長い時間が過ぎた。フランス機がようやく戦線に復帰した。アメリカ機がかいつまんで12時間交代制に決まった事をフランス機に告げている。フランス機はこちらに接近し、「よろしくな」と言ってくる。
「どうやら12時間交代制で決まりのようですね」
「二機ではかなりの手薄になりますがどうなんでしょう」
「日本機がついているので大丈夫でしょう。撃ち落とした敵機は日本機が一位でしょうからね」
アメリカ機と、ドイツ機がそれぞれの母船に帰って行く。正直フランス機と組むのは心もとない。だが、決まった以上はやれる事をやるだけだ。事実上翔馬の肩に全責任がかかっていると言ってもいい。
翔馬は暫し感傷にふける。雪菜との出合い、一発目の核攻撃、船内での生活、志保との別れ。そして今戦場に身を置いている自分…単調だったサラリーマン時代からは想像もつかない事だらけだ。
「軍人じゃあないそうだな、どうしてこの役を引き受けたんだい」
フランス機が聞いてくる。
「フライトシミュレーションで世界ランク4位だったからだよ。それにいろいろあってな、俺が行くしかなかったんだ。そっちは軍人さんかい?」
「ああ、一応パイロットだった。でも旧式のな。言い訳になるが、五回目の空間変位までは惑星βを開拓すると信じてたんだ。惑星αを攻撃すると決まってようやく訓練に入った次第さ。そういう訳で足手まといになるかもしれないが、勘弁してくれ」
「いいさ、人それぞれ理由があるものさ。そこを受け入れない程の子どもじゃないつもりだ」
フランス機が問いかける。
「俺の名前はミニッツだ。そっちは?」
「翔馬だ。空を飛ぶ馬という意味だよ」
「ショーマか。いい名前だ。じゃあふたてに別れて警備しよう」
フランス機はそのままアメリカ船の方に飛び去っていった。
どこから情報を仕入れたのか分からないが、α星の評議会が極秘で招集されていた。今はたったの二機で警備をしているという。
エヴァリースの評議員が皆の意見を聞く。
「敵機は今二機だけが警備中だという。これは千載一遇のチャンスではないだろうか」
「もういいのではないか。我々の戦闘機の大部分がやられた。一機仕留めたとはいえ、戦力の差は圧倒的だ。いくら機関銃で撃ちまくってもかすり傷一つつける事が出来ない。最後に残っている手は降伏だけだ」
ラスロの評議員が力なく口にする。
「もう一度だけチャレンジしてみよう。幸いエンクレットの戦闘機が三十機ほど残っている。これを出さないことには、我々の間で軋轢が生じる。どうだ?エンクレットの評議員」
エンクレットの評議員が黙り込む。様々な葛藤があるようだ。
「降りる事もできるぞ」
チュンコワの評議員が助け舟を出す。
「いや、このチャンスに賭けてみよう。我々エンクレットにも守らなければならない誇りがある。座して死を待つよりも、挑んで名を残すのみだ。」
評議会は終わった。エンクレットの戦闘機はノーマル機だ。全滅の確率の方が高い。それでも出ていかなければならない時もある。
早速エンクレットの乗組員に緊急発進の命令が下される。空母から一機、二機、三機と飛び立っていく。
ミラが素早く見つける。
「翔馬、うとうとしている場合じゃないわよ!二時の方向から大軍勢がやってきてるわ。おそらく警備が手薄になったのをどこからか掴んで反転攻勢に出るんじゃないかしら。ミスをしないこと。私からはこれだけしか言えないわ。頑張って!」
ミラのエールで奮起する。最初の編隊を上から覗く。なんと10機編隊だ。高度を思い切り下げている間にも、機関銃の当たる音が「チュン……チュン…」と聞こえてくる。
こちらは久々の斜め滑り攻撃だ。先頭から五機までを一気に葬り去る。素早く後ろにターンし、残りの五機を丁寧に潰していく。
基本はこれでいい。突発的な事が起きなければ…だが。
フランス機も駆けつける。
「やってやるぜ」
と少々興奮気味である。自分達が受け持っている時間に何か起きたら大変である。
「落ち着いていこう」
と翔馬が釘を指す。
また10機編隊だ。こんどはフランス機が挑む。三機をまず落とすと、同じように後ろにまわり込むと二機撃墜する。敵機は軸を見失い、とたんにあらぬ方角へとさ迷い始める。そこを翔馬がショットし、カバーする。
数の多さで勝負してやろうという意図は明らかだ。しかしその大局観はF-70には通じない。同じ戦闘機でも違う次元の乗り物になっているとでも言おうか。
最後の10機も斜め滑りだ。ロックオンからショットの滑りが丁度いい。レーザー砲を浴びせると、また宇宙に花火が舞い上がる。
「これはもしかして本当に終了したのかー!」
「エンクレットの三十機も、全滅させた模様ですね」
「イギリス機は悲しい最後を遂げましたがそれもまた運命だったのでしょう。日本機を操っていたパイロットの方、本当にごくろうさまでした。エースパイロットとして永遠に語り継がれていくことでしょう」
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