5:NOTE「その探偵、推理する」
「いいかね。まず、
そこでヒントになるのが、
先生が、人差指を立てながらアトリエ内を
「『
では、誰が持ち出したのか。
「それで、鹿……ですか」
「うむ。名推理だろう」
自信満々の先生に、何故か私が恥ずかしくなってしまい、両手で顔を
先生は、推理が苦手です。
想像が膨らみすぎてしまう上に、
もちろん、
今のところ、打率は
「君は、
亡くなる前に、
「それは、初耳です。いつの間に調べたんですか」
「滅多なことをいうな、
先生は、自分の頭を指さし、2度叩きました。
「地震速報を覚えていたに決まっているだろう。僕を誰だと思っている」
先生は、
そのため、日常に溢れている情報を
探偵としては、無敵の能力といえるでしょう。その記憶を、正しく引き出すことと、正しく事実に繋げることができれば、の話ですが。
「そんなわけで
さあ、
力強く言い放ち、外に飛び出そうとする先生の
「少々お待ちください、先生。その推理には、重大な穴があります」
「ふむ。君がそう言うんなら、そうなんだろう。で、その穴とは何だね」
先生は、私の
これは以前先生ご本人にお聞きしたことなのですが、ご自身の
正直なところ、先生は人間的にはかなりお壊れになっておりますので、私も振り回されることが多いです。
しかし、だからと言って悪人なのかと言えばそんなことは全くありません。先生は、とても素直かつ空気が読めないだけで、心根はとても優しい方です。
私のような生意気な部下の
私は、眼鏡の
「まず、大きな問題として、地震と言う
地震を合図とすれば、そもそも自分が呼びたいときに鹿を呼ぶことができません。
そもそも、
先生は、
「理由か。そいつは
すごい言葉が聞こえた気がしますが、気にしないことにします。
「考えられるとしたら、自分の作品を人目に付かないところに移したかった、といったところか」
「その可能性が高いと私は考えています。何故なのかはわかりませんが、
しかし、それに鹿を使う必要はありません。よしんば近くの牧場に隠し場所があるとしても、自分で運べばいいのですから。『
「うむ。非常によくわかる。僕も、大事なガスマスクを動物に被せたくはないものな」
微妙にずれているような気がしますが、気にせず続けましょう。
「そこで、先生にひとつお聞きしたいのですが、この辺りの
「うん。かなり
先生は、
「ということは、この建物はそもそも地震に弱いということです。
そして、一度業者を入れた。地震対策の工事にはいくつか種類がありますが、その中には、土を
先生が、ぱちんと指を鳴らしました。
「地下室か」
「はい。
「しかし、地下室への階段は見つからなかったな」
「そうなんですよね。ただ、地下という方向性は一考の価値があると思いますので、アトリエの外も含めて、もう一度
先生はふん、と鼻を鳴らすと同時に、迷いなく入口扉に歩を進めました。
「いや、この部屋に入った時から気になっていたんだ」
先生は、この部屋の中心……全てが
少し経ち、ある一点でカチンと異質な音をたてた瞬間、ドアノブがぐっとドアの中に飲み込まれました。
その瞬間です。入口扉の、ちょうど
音の方向に首を向けると、先ほどまでただの壁であったそこに、地下へと続く階段が姿を現していました。
私は、思わずぽんと手を叩きました。
「
このような時に、発想力の
久しぶりの
先生も
「そういうことだったのか。
あれ。
「先生は、そこで仕掛けに気が付いたのではないのですか」
「いや、全然。僕はただ、このドアノブの取り付け穴が、普通より1ミリほど大きいから不思議に思っただけだよ。動きそうだなあ、って」
「1ミリ……ですか」
果たして、
先生の
しかしそれはそれとして、
「さあて、いよいよ本丸か。さあ、
どこかうきうきとした様子の先生。私の答えは、もちろん決まっています。
「はい、先生。おともさせていただきます」
私たちは、暗闇に沈む地下室の奥へと、歩を進めました。
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