第397話 計画は始動する

「新しいマンションの抽選は通りそうですか」

 先生は頷く。


「うちのはエレベーターを待ちたくない、家庭菜園をしたいと言っていてな。1階の個別専有庭付き3LDKの部屋にする予定だ。おそらく抽選すら必要無いだろう。低層階は人気無いしな」


「あと機械類とか空飛ぶ機械コレクションはどうするんですか」

「空飛ぶ機械コレクションは学校ここの屋上に置かせてもらうことになった。今と同じ状態で雨風を防ぐ魔法もかける予定だ。本当は手元にずっと置いておきたかったのだがしょうが無い。それに学校に置いておいた方が学生の勉強にもなるだろう。

 機械類はまあ、頑張って考えるさ。詩織とも相談しないとならんしな」


 何なら当分はそのまま置いておいても問題はない。

 俺としてはそうも思うのだが、その辺は香緒里ちゃんとも相談する必要があるだろう。


「でも本当にうちの部屋を買う気か。こっちとしてはありがたい話ではあるんだが」

「私達としてもありがたいです。今の場所を引っ越さずに済みますし、今の部屋の施設もそのまま使えますから」


 田奈先生は頷く。


「なら助かる。だとするとスケジュールだが、結構かかるな。

 手続きとしては不動産鑑定士を入れて私の部屋を査定してもらい、銀行で司法書士を呼んで売買契約を結ぶ形になる。不動産屋に仲介させると手数料が馬鹿にならないからな。

 2月12日に私が新しいマンションを買えるかどうかが決定する。

 だが学校の方が2月18日まで期末考査だな。その後も入試だの再試験だの単位評価だので私の方がおそらく時間を取れないだろう。

 だから鑑定や取引は3月の春休み直前位になると思う。上手く行けば3月入ってすぐに引っ越しは出来る筈だ。詩織にボーナスを出せば島内の移動なんて1日かからんだろう」


「不動産取引は直接相対でいいですか」

「手数料がもったいないからな。税務署が怖いから鑑定士に鑑定させるが、それだけで充分だし安上がりだ。まあ鑑定士も司法書士も知っているのがいるから任せておけ」


 この辺は田奈先生に任せておけば大丈夫なようだ。


「あと、私の方は特に急ぐ必要は無いからな。もし購入出来ないとなったら素直にそう連絡してくれ。どうせあの場所はなかなか売れないと思っていたんだ。何せ前例があるからな」


 そう言えば由香里姉がマンションのあの部屋を買ったのって、『買い手がいなくてどんどん値下げして半額以下になったから』が理由だったな。


「ありがとうございます。では利害関係者にだけこっそり了解をとっておきます。先生も詩織ちゃんにはまだ言わないでおいて下さい」

「わかった。なら言わないでおこう」


 俺達は田奈先生に頭を下げる。

 何やかんやいっても田奈先生は話が早いし親切だし助かるのだ。


 ◇◇◇

 

 ハツネスーパーの建物内のバネ工場。

 密談をするにはちょうどいい場所だ。

 ソファーセットもあるし、皆バイトの時くらいしか来ないから。


「部屋はどうする。今住んでいる方を学生会用にする?」

 香緒里ちゃんの質問に頷く。


「その方がいいだろうな。間取りもそうなっているし。引っ越しそのものは隣だし、多分ウォークインクローゼット先の物置奥の壁は抜けるだろう。それに大物は詩織ちゃんに頼めば簡単だしさ」


「ジェニーと由香里姉には話しておいた方がいいですね」

「今夜は皆が集まるから日曜夜あたり、詩織ちゃんが帰って由香里姉とジェニーだけになったら話そう。他は決まってからの方がいい」


「部屋の名目は会社の福祉施設って事でいいんですよね」

「実際にそうだろ、休みに働いてくれる方々へのサービスという事で。学生会名目にしたらどの世代で切るかとか面倒だし、あくまで会社の名目で」


「旅行も同じでいいんですよね」

「ああ、勤務員の皆様へのサービスって事で」


 元々香緒里ちゃんとある程度話し合っているので話は早い。

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