第396話 住居保養所整理計画

 さて、実は俺と香緒里ちゃんで考えている事があった。

 今の学生会との関係とか今の部屋の扱いとか広さとか、まあ色々な事の整理だ。


 香緒里ちゃんやジェニーが学生会幹部として現役でいる間はいい。

 でもこの2人が学生会を卒業した後。

 例えばルイスやその下の世代はマンションに勝手にやって来たりとか露天風呂を今のように自由に使ったりする事が気分的に出来るだろうか。


 それに人数がこれ以上増えるとキャパとしてももう限界だ。

 学生会の世代で分けるとしてもそう素直に出来るだろうか。

 このあたりの問題を解決しておきたい。


 実はかなり前、工房移転の頃から2人で時々こっそり話し合っていた。


 2人だけで探している理由は簡単。

 解決手段にはそれなりに多額の費用がかかる。

 その費用がかかる事を誰にも気兼ねなく決められるのは俺と香緒里ちゃんの2人だからだ。


 一応ある程度の目処はあった。

 特区公社による新規個人分譲型マンションの建築計画である。

 俺が学生会長だった頃に着工した新規のマンションが間もなく完成し、募集を開始する。

 今度の開発はここ初音台にあるマンション3棟と同規模だから、建物も室数もかなり多い。


 民間の開発ならとっくに全容なり部屋一覧なり出ているのだろうが、公社の企画なので代表的な部屋の間取り等最小限の情報しか入っていない。

 完成後になって正規の募集が始まらないと情報が出てこないのだろう。


 ただ完成すれば既存のマンションも含め、かなりの物件が動く可能性が高い。

 その時に出来るだけこの露天風呂のある部屋に近い場所を確保するつもりだった。

 なので常に島内の不動産状況を見ながらチャンスを窺っていた1月末の木曜夜。


「ひょっとしたら引っ越すかもしれないのです」

 詩織ちゃんが夕食中にぼそっとそんな事を言った。


「引っ越すって、この島から」

「新しく出来るマンションを狙っているらしいのです。お姉ちゃんも独立するし、今の部屋だと広すぎて大変だとお母さんが言っているのです」


「確かにこの部屋と同じ広されは大変れす」

「でも詩織ちゃんは距離はあまり関係ないわよね」


 由香里姉の台詞に詩織ちゃんは首を横に振る。


「新しいマンションを買うと狭くなるのです。私のと親父の機械類おもちゃを置く場所が無くなるのです。でも家のことはお母さんには逆らえないのです」


 俺と香緒里ちゃんの視線があった。

 これはきっとチャンスだよね。

 そう詩織ちゃんの目線が言っていた。



 早速次の日、放課後に香緒里ちゃんと一緒に田奈先生の研究室を目指す。

 今日在室している事は確認済みだ。


「どうした2人雁首並べて。研究室配属関係の情報ならまだ出せる状態じゃないぞ」


 そう言いつつも何か話があるという事はわかったのだろう。

 学生のいる研究室ではなく応接室の方へと通してくれた。


「で、話は何だ」

「引っ越されるって本当ですか」


 まずはそれを確認しないとな。

 田奈先生は頷く。


「ああ。うちのがその気で困っている。今の部屋は広すぎるし部屋数も多くて掃除や維持が大変なんだと。4月には娘も独立して出て行く予定だしな」

「実はもしあのマンションの部屋を出ていかれるなら、是非とも買いたい。そうお願いするつもりで今日は来たんです」


「本気か?」

 田奈先生はそう言ってから訂正する。


「本気でなければわざわざ来ないだろうな。ならちょっと待て」


 田奈先生はそう言って研究室の方へ歩いて行く。

 そして約1分後、印刷された数枚の紙片を持って戻ってきた。

 紙片の内容は新マンション関係の資料だ。


「部外秘のコピーだから2人で確認した後はシュレッダーしろ。

 これに書いてある通り、新しい公営分譲マンション『聟島ノーステラス』は2月1日に募集概要公表、3日から募集開始、12日に第1回募集終了で即日抽選が行われる。

 第1回で購入できれば3月1日から入居開始できる予定だ。引っ越しはまあ、詩織にボーナスを出せば1日もかからないだろう。

 3月19日の終業式から新入生の資料が来る4月1日までの間に、細かい作業も含めて終わらせる予定だ」

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