第394話 祭の終わり
学園祭の終わりは大体学生会室で過ごしていた。
1年生の時が例外だが、あの時は祭りそのものが面倒だったので寮の自室でパソコンに向かっていた。
なので学園祭をまっとうに花火を見ながら過ごすのは実は高専最後にして初めてだ。
まあどうせ隣の魔技大に進学するんだけどさ。
実は今いる場所、祭りの中というには少し申し訳ない。
マンションの屋上、露天風呂の隣の空飛ぶシリーズ駐機場所である。
学校の屋上は花火の時間だと満員だし、位置的にも花火を見るには最高の場所だ。
ただ問題が無いわけでもない。
「長津田もこっちでお湯浸かりながら花火見ればいいのに」
露天風呂を由香里姉、風遊美さん、世田谷が使用している。
風呂に浸かり花火を見ながら毎度おなじみ通称清涼飲料水をまったり楽しんでいるのだ。
そっちに参加しない理由は簡単。
人数は少ないながらも心臓に悪い面子だからだ。
ちなみに鈴懸台先輩と月見野先輩はリラクゼーションサロン撤収中との事。
他は学生会現役だから学生会室だ。
「しかし花火、きちんと見たのは初めてだな」
思った以上に華やかで綺麗なものだ。
原理も構造も炎色反応の色の元もわかるけれど、それでも実際に見る花火の綺麗さや迫力は大したものだ。
「毎年どんな天気予報でもこの日のこの時間だけは花火が出来る程度に晴れるのよね。誰か魔法使いが関与しているという噂もあるけれどさ」
「やめて、
「そうですね。いたとしても不思議ではないです」
まあそういう場所だけれどさ。
ここの高専や大学の学園祭は、もともとは特区の成立を祝う日。
俺の生まれる前の11月3日文化の日、この聟島の特区は産声をあげた。
世界の魔法特区が縮小と集約の流れにある中で。
方向性の異なる色々な思惑が当然あったらしい。
ある人は経済大国である日本の当然の責務として、ある人は国際協力と文化の美名のもとに、そしてある人は縮小しつつある魔法勢力の反抗拠点として。
結果として最後発ながら世界最大かつ魔法の最先端の拠点として今の
学園祭が11月3日を含む週に設定されているのはその為で、学園祭とともに島中がお祭りになるのもそれ故との事だ。
だからこの日を常に晴れにして祝っている超級魔法使いがいても不思議ではない。
ここが出来た事とともに、今もまたここに在る事を祝う為に。
今の俺には何となくその気持が分かるような気がする。
俺達も学生会なりここでなり仲間と見ているこの花火を、また何年か後も同じように見る事が出来るだろうか。
変わっていく事と変わらずにいる事の間で。
最後の一番大きな花火が辺りを照らし広がっていき終りとなる。
何もないけれど何かしら感じる余韻を残して。
「そう言えば夜御飯、皆さんどうします?」
「朱里が仲間内の売店の残りを買い占めて帰ってくるって言っていたわ。花火も終わったし、そろそろこっちに向かってくるんじゃない?」
月見野先輩は免許は持っていないけれど、飛行機械を特区の制限領域内で使うなら免許はいらない。
つまり飛んでくる分にはOKという事だ。
「現役の学生会連中も戻ってくるでしょうし、そろそろ支度をしましょうか」
「そうですね」
俺達はお祭りから日常へと戻る。
色々な思惑や祈りや叫びや行動や仕事の元に成立している奇跡的であたりまえの今日が在る事に、いつもよりちょっとだけ感謝しながら。
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