第393話 夢とお仕事

 研究室に戻ると世田谷がやって来た。


「研究室の臨時飲食費、3500円を徴収中です」

 要はさっきの宴会で使った代金だろう。


「おいよ、悪いね集金」

 財布からちょうど取り出して世田谷に支払う。


「あと魔法使い皆がこんな魔法使える訳じゃないって事と、詩織ちゃんの魔法の口外禁止も言っておいたからね」

「色々すまん」

 本当ありがたい。


「でもあれだけ色々な事が出来るって事は、将来はさっきみたいなのがもっと普通になるかもしれないって事ですよね」

「先生辺りにならこう返されるんじゃない。そうしていくのが君達の仕事であり役割だね!なんて」


「そうなれば私の闇魔法も変な目で見られなくなるのかな」


 三田さんと目黒さんの掛け合い、そして世田谷のつぶやきが聞こえる。

 実際、そうなっていくんだろうな、そう俺も思う。


 この世界の魔法の歴史は、偏見と一般化との戦いだ。


 魔法が表舞台に登場したのはそれ程昔では無い。

 事実上は人類が月に到達した年の翌年、西ドイツにて十数人の学者らにより魔法の存在と有効性が叫ばれたいわゆる『黒い森宣言』からだ。


 厳重に守られた初期の特区で明らかにされた魔法の実在とその可能性。

 その実績が認められ世界中に特区という名の共同体が設立されていった拡張期。

 一時は20を超えた特区が既存勢力やテロに負け次々に集約され消えていったいわゆる『第2次魔女狩り』こと集約期。


 その集約期後期に様々な思惑と今までの反省から新たに築かれたこの日本の特区。


 現在、魔法は3大特区及び幾つかの研究機関で少しずつまた発展へと踏み出した状態だ。

 そして今俺達がいる聟島こここそが今の魔法の最前線。

 のんびりした常春の研究機関付離島にしか見えないこの場所だけれども。


 同じ場所で同じ現実に向き合っていても、例えば俺と風遊美さんと奈津希さんと詩織ちゃん、それぞれ感じる世界や見える世界はきっと違う。

 感じた風の寒さも受けた痛みもぜんぜん違う


 それでも同じ明日へ歩いてけるし共有できる夢もきっとある。

 一緒にそれを広げていけるなら、この場所から少しでも広げていけるのなら。

 それはきっととても素晴らしい事のように思えるのだ。


 まあ、その前には色々現実が待っているんだけどな。

 さしあたっては論文の作成とか、それ以前にこの部屋の掃除とか。


「愛希ちゃんに頼んでおけばよかったかな。あいつゴミ焼却魔法使えるし」

「長津田だって使えるでしょ、ゴミ分別袋詰魔法」


 本当は機械の修復魔法だ。

 ただ『在るべき物を在るべき場所へ在るべきようにする』という魔法の原理をゴミの分別収集に応用して使用しているだけで。


「杖使えばそんなに疲れないでしょ。さっさとやる!」

「はいはい」


 マンションに入り浸っているせいで、俺の手の内は世田谷に把握されまくっている。

 袋3枚を置いてプログレス1号改を使用して魔法を発動。

 あっさりゴミは袋に入り、机上等も拭かなくても綺麗な状態になる。

 手を付けていない菓子類が戸棚や冷蔵庫に収納されるおまけ付きだ。


「おおっ!これが出来れば部屋の掃除も!」

 三田さんが感動している。


「この魔法って習得は難しいかな?」

「長津田の魔法もユニーク過ぎるしね」

 つまり俺はこき使われると。


「誰しも魔法は本質的にはユニークなの!」

「それをコモンセンスに落とすのが私達のお仕事です!」


 はいはい、その通りですよ目黒さん。

 じゃあまずはその第一歩として、ゴミ捨てにでも行ってくるとしますか。

 俺は縛った袋を手に持った。

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