第390話 魔法実演会、という名の宴会(2)

「それにしても天気が悪くて残念ね。晴れていたら詩織ちゃんのフリーフォールが楽しめたのに」


その名の魔法は初耳だ。


「何ですかそれは」

「上空500メートルに出て、100メートル位自由落下するのです。なかなか楽しいのですが今日は雲があるので出来ないのです」


 そんな危険な遊びをしていたのか。

 まあ詩織ちゃんにとっては危険じゃないんだろうけどさ。


「ではここで世田谷先輩による闇魔法使用の怪談をお楽しみ下さい」

 沙知ちゃんは先輩でも容赦なく指名。


「えー、やるのー」

 と言いつつノリノリで前に出る世田谷。


 同時に辺りがすっと暗くなり重くなる。

 ただ電気を消したのとは異なる感覚。

 全ての光が塗りつぶされ、そして暗闇に身体が押しつぶされるような感覚。

 その中で世田谷の声だけが聞こえる。


「昔々、まだ聟島が特区で無く、自然保護もあまりうるさく言われていない頃のお話です。ここ聟島は、ヤギの楽園でした……」


 ◇◇◇


「そして自然保護の名目で惨殺されたヤギたちの恨みは、今でもこの聟島に残っているのです。そう、ほら、あなたの後ろにも……」


 唐突に背後に気配を感じる。

 振り向くと何かがぼんやり見える。

 目を凝らすとそれは形をとって迫ってくる。

 2本の角を伸ばしたヤギの骸骨が、カタカタ骨を震わせて迫ってくる……


「ギャー!」


 ふっと部屋が明るくなる。

 元の研究室だ。


「どうもありがとうございました」

 と戻ってくる世田谷。


 話自体はたいして怖い話でもないのだが、演出があまりに怖すぎる。

 俺は3度目で免疫がついている筈なのだが、それでもやっぱり怖いしな。

 免疫なしの女子大生連中はまだ固まっているし。


「じゃあここで雰囲気を変えるために、玉川先輩、鉛筆からダイヤモンド製造してみて下さい」


「えー、あれ、疲れる……」

「はいここで諦めて!オスカーちゃんにもルビー作ってもらいますから」


 沙知ちゃんは容赦なくそう言って、玉川先輩に鉛筆1ダース、上野毛にサビの出た何かのアルミニウム部材を渡す。


「それでは皆でカウントです。皆でいかないとリビングデットやオスカーちゃんがちゃんと作ってくれませんよー。さあ10から行きます、はい、10,9……」


 ダイヤとルビーと聞いて女子大生連中が生き返った。

 カウントが進んでゼロ!の声と同時に玉川先輩と上野毛の手元が白く輝く。

 そして。


 上野毛の手元には見事な赤い宝石、そして。


「疲れた。研磨その他は長津田に任せた」

 玉川先輩から投げ渡された黒い鉱石みたいなものを俺は受け取る。


 審査魔法で見ると確かにダイヤモンドが生成されていた。

 まあ、しょうが無いな。

 魔法で一気に加工研磨する。


「ほい、ブリリアンカット済み」

 一番席から近くてまだしっかりしている春日さんに渡す。


「えー、これ、本物?」

「モース硬度計どっかの研究室にない?」


 大騒ぎだ。

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