第389話 魔法実演会、という名の宴会(1)

 木曜日は雨だった。

 コスプレ人口も外でのお祭り騒ぎもぐっと減る。

 きっと学生会にも実行委員会にもつかの間の平和が訪れていることだろう。


 しかし何故か新地研究室は異常に騒がしかった。

 三田さんがある理由で詩織ちゃんグレムリン友達フレンズを呼び込んでしまったからだ。

 以降面倒なんで詩織ちゃん以下をまとめてグレムリンズと呼んでおこう。


「まずは軽くファイアストーム!」

「おーっ!」


 パチパチパチ。

 炎を纏った渦巻きがゆっくりと研究室内を進んでいく。

 無論威力は相当に調節されているが。


「アイスウォールで防御ですわ。ついでにクールミスト!」

 台詞とともに出現した氷の壁と霧が炎の竜巻を食い止め、消し去った。


「おーっ!」

 パチパチパチ。


「ひとつ質問なんだが、クールミストって攻撃魔法か?」

「風呂上がりに気持ちいい涼しい霧のシャワーですわ」


 愛希ちゃんと理奈ちゃんによる掛け合いながらの魔法披露。

 要はグレムリンズによる魔法の実演会である。


 リアル魔法にそれ程馴染みがない三田さんが詩織ちゃんに魔法を色々見せてくれるよう頼んだのがきっかけだ。

 それに詩織ちゃんが、愛希ちゃん理奈ちゃん美雨ちゃん沙知ちゃんに、何故か上野毛まで招集。

 その結果が今やっている魔法実演会という訳だ。


 この研究室は工場としても使うため、壁や天井に耐魔法処理をしているし広さも結構ある。

 なのでこういった催しをするには困った事に最適だ。


 なお室内には三田さん春日さん目黒さんの他に、3人の知り合いらしい女子大生5人。

 他に研究室にいた玉川先輩、俺、世田谷という感じだ。

 ちなみに等々力と恩田は上野毛を見て速攻で逃げた。

 俺も逃げたかったが世田谷に捕まった。


「いざという時に収拾つける人がいないと不味いでしょ。それに長津田さえ確保しておけば多少備品や部屋を壊しても直してもらえるし」

 おいおいおい、後半部分に本音ダダ漏れだ。


 なおグレムリンズへの報酬は食べ放題と飲み放題。

 なのでゼミ会議用のテーブル上には清涼飲料水やチューハイや食べ物等がわんさか。

 魔法の紹介もはや宴会芸のようになっている。


「次は修先輩!例の女性お持ち帰り魔法やって下さい!」

 総合司会を何故かやっている沙知ちゃんが俺を指名する。


「まさか長津田、そんな事まで……」

 勿論俺に心当たりはない。


「待て世田谷、何かの間違いだ。綱島何だよその女性お持ち帰り魔法って!」

「あのふらふらにして立てなくなる奴です」


 ああ、あの三半規管揺らす奴か。言い方が悪いぞ。


「あと誰か被害者役1名、酒とオトコに強いと自信ある方!」


「よーし、私行っちゃうよ!」

 ほろ酔いモードの三田さんが参戦。


「あと、倒れると危ないので誰か解除役をお願いします」


「はいはい」

 目黒さんが出てきた。


 ちなみにここまで俺の意志は誰も聞いていない。

 何故か司会進行している沙知ちゃんが勝手にやっている。


「では修先輩、必殺お持ち帰り魔法、どうぞ!」


 やるの?

 まあ、やるけどさ。


 この距離なら特に難しい事は無い。

 魔法で一撃。


 ただでさえほろ酔い気味の三田さん、あっさり倒れる。

 とっさに支えた目黒さんごと見事に倒れる。

 ただ障害物の無い方向だったので怪我等は無い。


「ははははは、世界が回る回っているぞ~っ。ぐーるぐる」


「やらせじゃないよね。酔っ払いだし」

 目黒さん、不審気?


「なら目黒先輩も、どうぞ!」


 やるの?やるけどさ。


「うわうあうわあああ、確かにこれ目が回る。これは確かに立てなはははは、面白いわ」

 短めのスカートでのたうち回るのはやめて欲しい。


「雨の初寝坂のあの魔法、本当に出来るんだ……」


 あ、何かNGワードが出てきたぞ。


「あれはあくまでフィクションですから本気にしないで下さい」

「なお著者は綿密なる取材の上、執筆しております」


 こら著者つなしまさち!誤解を招く表現はやめろ!

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