第388話 グレムリンの餌付け

「おいおい、誰を呼ぶんだよ」

 困った事に心当たりは山ほどいる。


「一番簡単に呼べる子よ。冷蔵庫の中にケーキが入っているじゃない。多分あれで召喚出来るわよね」


 世田谷の台詞ですぐ俺も誰かわかった。

 確かに一番簡単に呼べるし魔力最強の実戦的魔法使いだな。


「召喚って、まさか魔獣とか?」

 とは事情を全く知らない春日さん。


「魔獣なんて存在は今のところ確認されていないわ。大丈夫、可愛い娘だから。という訳で長津田、準備」

「おいよ」


 冷蔵庫からケーキを3ピース取り出し皿に載せ、ケーキフォークを添えてテーブルの上に置く。

 召喚呪文を唱える。


「詩織、おやつあるぞ」

「ありがとうなのですよ」


 実にあっさりと詩織ちゃんが出現した。

 おおーっ!という声が3人から漏れ出る。


「ちょうど休憩時間になったからよかったのです。では有難く頂くのです」


「その前に挨拶。世田谷はともかく他は初めてだろ」

 俺の足を踏みつけつつも声と仕草は可愛らしく詩織ちゃんは挨拶する。


「高専の魔法工学科3年の田奈詩織と申します。宜しくお願い致しますのです」


「今のって、瞬間移動?」

 春日さんが尋ねる。

 まあそう見えるよな。


「空間操作魔法で近回りをしただけなのです。世田谷先輩、もう食べてもいいですか」

「許可!」

 世田谷、あっさり許可出すな。


「では遠慮なく頂くのです」

 詩織ちゃんはケーキを食べ始めた。


「世田谷さん、これってさっきと同じ幻覚魔法?」

 目黒さんが未だ半信半疑だ。

 でもケーキは確実に無くなっていく。


「正真正銘の高専の学生よ」

 本人は何を言われようと全く気にせずケーキを食べている。


「でも何か可愛い、可愛い過ぎる」

 とは三田さん。

 おい、ちょっと雲行きが変だぞ。


「そう言ってくれるとうれしいのです。ありがとうです」

 三田さんに向けてしっかりポーズを取る詩織ちゃん。

 でも俺はここで注意したい。

 三田さん、見た目に騙されるな!


 確かに魔法少女コスプレで可愛い格好をしている。

 困った事に似合っているし一般的に見ても可愛いかもしれない。

 でも中身はグレムリンだし年齢も俺達とそんなに離れていないぞ。


「ねえねえ詩織ちゃん、今日これからは何か用事入っている?」

 そして何やら三田さんに何やら不穏な気配。


「今日は5時半に学生会室に戻れば大丈夫ですよ」

「ならお姉さんと大学側の学園祭を回らない。色々美味しい物も出ているよ」


 あ、三田さん早くもグレムリンの扱い方を理解している。

 詩織ちゃんがキラキラ目で俺の方を見た。


「修先輩、いいですか」

 きっと止めたら色々めんどいことになるだろう。

 詩織ちゃんも三田さんも。


「いいけどあまり無茶な魔法とかは使うなよ」

 東京往復とかするなよ、という意味だ。


「了解なのです」

 まあ大丈夫だと思う……大丈夫だろうか?


 ちなみに俺が東京往復の次に心配なのは三田さんの財布だ。

 詩織ちゃん、本当に食べるから。

 本当に大丈夫かな。

 俺は心配だぞ。

 責任もとれないぞ。

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