第381話 香緒里ちゃんの進路

 木曜日の夕食。

 金曜と違いそこそこ部屋の人数は少ない。

 居住者以外でいるのは詩織ちゃんだけだ。


 これくらいの人数だと何か家族って感じがする。

 まあ由香里姉と香緒里ちゃん以外は血のつながりはないけれど。


「由香里姉は卒業単位は大丈夫ですか」

「ん、余裕よ余裕。もう専門幾つかしか残っていないしね」


 既に大学院も決まっている。

 相変わらず優等生ぶりを発揮しているようだ。


「そう言えば香緒里、学祭終われば第一次の研究室希望調査でしょ。何処か決めた?」

「まだです。一応調べてはいますけれど」

「しっかり調べた方がいいわよ。下手すれば院までお世話になるんだから。修と同じというのじゃなくて、ちゃんと自分で適性とか志望とか考えないと」


「由香里先輩はどうして決めたれすか」

 ジェニーが尋ねる。


「ジェニーと同じだと思うわよ。氷系魔法だと選択できる研究室は1つしか無いわ。攻撃魔法科で研究室を選べるのは肉体強化系位よ」

「そうれすね。補助魔法科も医学系なら選択肢は多いのれすが」


 補助魔法科は4年になる時点で所属研究室は決定している。

 そしてジェニーの専門はレーダー魔法を中心にした感知系。

 研究室は事実上1つしか無い。


「美南ちゃんみたいに他の科の研究室って荒業もあるけどね。だったら余計に事前準備が必要だけれども」


「私はロボットを作りたいですよ」

 お、3年生が参戦してきた。


「ロボット系の研究室は2つあるぞ。魔法生体工学か魔法制御工学系か」

「スーパーロボット系やリアルロボット系は無いですか」

「そんな物は無い」

 ゲームじゃないんだから。


「参考までに修、魔法工学科はどんな研究室があるの」

「今の時点では魔法基礎工学、魔法基礎理論、魔法情報科学、魔法制御工学、魔法制御科学、魔法生体工学の6つかな。うち魔法基礎理論は他の学科と共通で、実際は攻撃魔法科の主管。ただ魔法工学科自体が魔法学内では学際的な学科だから他の学科の研究室に行くのも例年何人かいる。ジェニーのところも1人行ったと思うけれど」


「箱根先輩れすね。メカ強い人がいると何かと助かるれすよ」

「という訳で選択肢はその気になればほぼ全学科の全研究室ってのが実態だな。過去には補助魔法科医学系に行った例もあるらしいし。無論他の学科に行くならある程度事前に話を通しておいたほうがいいけどさ」


「良くも悪くも選択肢はよりどりみどり、って感じね」

 由香里姉は頷く。


「で、リアルロボット系はどれがお薦めなのですか」

「聞くなら俺より適任者がいるから後に紹介してやる。女装男子だけどな」

「オスカーさんならこの前飯奢ってもらったですよ」


 オスカーさんとは魔法制御工学研究室所属で俺の親友、上野毛君の女装時の仮名だ。

 まあ常に女装しているのだが。

 上野毛め、既に青田刈りの毒手を詩織ちゃんに伸ばしていたか。


「一緒に人工女性ファティマを作らないか誘われたので、どっちかというと巨大電気人形ゴティックメードの方が作りたいと返事しておいたのです。それでもいいから宜しくと言っていたのです」


 有望な4年生にコナかけるのはまあ多いけれど3年まで手を伸ばしていたか。

 まあ俺も3年の時には既に新地先生に誘われていたしな。


 そう思って気づく。

 よく考えたら香緒里ちゃんは学科面では現4年魔法工学科の筆頭。

 何処かの研究室に誘われていてもおかしくは無い。

 というか思い返すと、香緒里ちゃんに対してのそういうモーションを幾つか目撃したような気がする。


 その事を香緒里ちゃんに聞こうとして、そして俺は考え直す。

 今それを言わないというのはそれなりに何か理由があるのかな、と。


 なら今は聞かないのが賢明なのだろう。

 だから俺はこの件はあえて今回はこれ以上聞かない事にした。


「そう言えば修は大学の転入試験、大丈夫なの」

「一応推薦枠には入っているので大丈夫かと……」

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