第376話 世田谷の追及(1)

「そう言えば長津田って、去年までは結構学生会でハーレム状態だったらしいわね」

 おいおい世田谷、いきなり何を言うんだ。


「今までの話を色々聞いてさ。これは追及したら面白そうかなと思って」

「勘弁してくれよ。折角の旅行だし」


「せっかくの旅行だからこそ追及のチャンスなんじゃない。ゼミでやったら顰蹙買うだろうし、いつものマンションでやったら利害関係者多くて……それも面白いかも」

「おいおい」


 風遊美さんは止めずに笑ってみている。


「もう5年で卒業だし学生会も卒業したし、そろそろ引導を渡してあげようかなと思って」

「世田谷自身はどうなんだよ」

「大学行ってから考えるわ。高専うちの連中はどうもちんまりまとまり過ぎていて私向きじゃないし。うちの学年だと、強いて言えば魔法工学科の上野毛かな」


 おい、よりによって奴かよ。

 上野毛は確かに天才的に頭もいいし魔力もあるし顔もいい。

 性格も付き合ってみれば凄く良い。


 ただし普段から女装してるし言動はぶっ飛んでいる、

 学校の工作展示にアンドロイドの試作品としてダッチワイフ持ってくるような奴だ。


「奴の良さをわかってもらえて個人的には嬉しいけどさ。一般的なセンスじゃないな、それ」

「人は人、私は私」

 こいつも我が道を行くタイプだった。


「という訳で私の話はここまで。本題は長津田の恋愛関係の追及よ。そこで長津田に最初の質問。長津田は自分が誰を好きか、誰を気に入っているか誰をもとめているか自覚ある?」


 いきなりの質問だ。


「質問内容が微妙にあやふやなんで答えにくいな」

「言うと思った。でも今の質問で答えた方が傷は少なかったと思うわよ」


 世田谷は悪そうな笑顔がよく似合う。

 さすが黒魔女。


「じゃあずばり言うよ。由香里先輩、風遊美先輩、香緒里ちゃん、詩織ちゃん。あと私と入れ替えで今はいないけれど奈津希先輩もきっとそう。この5人についていつも視野に入れようとしていたり動向を無意識に気にしているのって、自覚ある?」


 いきなり豪速球がきた。

 しかも直球ストレートのデッドボールだ。


「まあ薊野姉妹は幼馴染だし、風遊美さんと奈津希さんはすぐ上の先輩で何かと相談しやすかったしさ。詩織ちゃんはまあ、色々経緯がある訳で」

「長津田が言っているのは原因というか要因。私が言っているのは観察結果」


 世田谷、容赦無い。

 風遊美さんは世田谷を止めるどころか面白そうに見ているし。


「さて次行くよ。このうち奈津希さんは彼氏がいるし、風遊美さんとは振ったか振られたかしたんだよね。さあこれで残り3人。ここまでに異義は」


 ありません。というか……


「容赦ないな。世田谷」

「うん、よく言われる」

 黒魔女に言葉のジャブは効かない。


「ついでに言うと風遊美さんの件は某誰かの推測だったんだけど認めたという事で」

 黒魔女、本当に徹底的に容赦ない。


「更に絞るよ。次は詩織ちゃん。長津田が詩織ちゃんを気にしているのは恋愛感情とかそういうのでは無いと思う。あれはどう見ても疑似兄妹とかそっち方面よね。

 長津田は詩織ちゃんの事を先輩としてというか兄貴分として色々心配している。

 詩織ちゃんとは恩人として又は頼りない危なっかしい兄貴分として保護しつつ保護されている。

 そんな感じかな。

 まあこれは衆目一致する処なんで異義申し立ては省略するよ」


 まあ詩織ちゃんに対しては異義はないな。

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