第374話 秘境湯撃隊(4)
困った事に秘湯探検はまだまだ続く。
「そろそろ次の場所に移動するのです。集合なのです」
と俺達は詩織ちゃんを中心に集合させられる。
「今度も川の中なのです。深さは足首よりちょい上くらいなので、そのつもりでいて欲しいのです」
了解した。だから早く移動してくれ。
俺は心のなかでそうつぶやく。
濡れた浴衣姿の女子高専生等と超接近状態なのは心臓に悪い。
ぎりぎり触れない程度の距離は何とか保っている。
でも感じる気配とか息遣いだけでも結構やばいのだ。
頼む早くしてくれ……
そう思った何度目かで覚えのある浮遊感を感じた。
そしてすぐに着地、確かに川の中だが水は浅い。
「ここも通行禁止の林道を歩いた後に川登りしないとたどり着かない場所なのです。水位は低いけれど寝湯には最高なのです」
どれどれ。
心臓に悪いので女子高専生からできるだけ離れて横になる。
切り立った谷間の中、細長い星空が見えた。
水温はさっきの滝壺の温泉よりちょっとぬるい。
でもすぐに慣れる程度だし冷たくは無い。
「確かにこれ、気持ちいいですね」
風遊美さんの声。
広さが微妙に足りないので実は俺の足元は温泉より川に近い感じの水温。
それでもなかなか気持ちはいい。
「さっきの滝壺の温泉は濃すぎるし熱いので、ここでクールダウンしてから帰るのです。浴衣もタオルもさっきの成分が薄められるのでちょうどいいのです」
成程な、よく出来ている。
ここはさっきの滝壺の温泉の近くなのだろうか。
細かい場所を詩織ちゃんが説明していないのでよくわからない。
でも移動時間もごく僅かだったし多分そうなのだろう。
俺は狭い星空を見ながらふと思う。
昔の詩織ちゃんはどんな思いでこの空を眺めていたんだろう。
今の詩織ちゃんはどんな思い出この空を眺めているんだろう。
わかろうと思うのさえきっと傲慢なのだろう。
それでも俺は色々思って、考えてしまう訳で……
そしてやっぱり思うのだ。
今を詩織ちゃんは幸せに感じてくれているかな。
俺達は詩織ちゃんを少しでも幸せな方向に連れてこれたかな、と。
実際俺達はほんのちょっとの手伝いしか出来ないのだけれど。
結局は詩織ちゃんが自分で全てを片付けたのだけれども。
その片付けた内容すら実は細かく知らないけれども。
それでも、きっと。
と思ったところで雑音が入る。
「寝湯って最高ですよね。星空を見ているとふっと見知った影が覆いかぶさってきて。そして『星空と俺とどっちがいい?』なんて言って唇と下半身奪われて!」
おいおい。
「沙知、妄想がダダ漏れしてます」
流石に理奈ちゃんが先輩として注意する。
と思ったら台詞に続きがあった。
「妄想は心の中でするものです。つまらない現実より楽しい妄想!そう思っても口に出してはいけないのです。秘すれば花。きっと穴。観阿弥世阿弥もそう申しています」
……おいおい理奈ちゃん、とんでもない事言っていないか?
「世阿弥は足利義満の男色相手という話もありますわね。なら秘すれば穴というのも間違いではないかと思いますわ」
これこれ大先輩!
いつになく品のない発言!
そして話題はどんどん腐っていき、俺は1人地蔵を決め込む羽目になった……
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