第371話 秘境湯撃隊(1)
夏休みもお盆が過ぎて一段落した8月20日の夜。
北海道は小樽、朝里川温泉。
学生会夏の旅行も今宵で4泊目だ。
集合した後新幹線で函館へ向かい湯の川温泉に2泊。
更に山の中のいかにも秘湯風な温泉旅館にも1泊。
旅行は今のところ順調だ。
特記事項みたいなのも特に無い。
強いて言えば秘湯風温泉旅館でちょっとなあ、という事があった程度だ。
そして4日目の今日は小樽の街を観光した後、小樽からバスでちょっと登ったところにある貸別荘を2軒借りて泊まっている。
今日はここでのんびりと泊まる予定だ。
借りた貸別荘は2軒で1つの建物という形。
ログハウス風な建物にシャワー付きの風呂とか洗濯機とか炊飯器とか皿とか鍋とか、まあ一通りついている。
飯は昼間散々スイーツを食べ歩きして、更に夜には海鮮丼だの寿司だの大量に食べて来た筈なので特に用意はしていない。
炊いた御飯に市場で買ってきた塩水うにを載せた豪華ウニ丼作って食べている奴が数名いるが、それを含めてまあ平常運転ってところか。
というかおいジェニー、君はもう限界だろう。
食べ過ぎだからそろそろやめた方がいいと思うぞ。
詩織とかロビーとか、あとそれには劣るが理奈ちゃんとかは胃袋が異次元級だから張り合ったら倒れるぞ。
ソフィーはもうノックアウト済みだし。
なお昼間に買ってしまったお土産のガラス細工等は、詩織印の超高速便で聟島のマンションに既に送ってある。
最近は詩織便、場合によっては風遊美さん便の使用が常習化してしまった。
手数料も詩織便の場合は美味しいもの1回分で済むので安くて便利だ。
そして今いるこの場所。
夏と言っても北海道のそこそこ標高高めの場所のせいか、風が凄く気持ちいい。
しかも他の客と建物が別なので多少騒いでも問題ない。
こういう貸別荘もいいなと思いつつ1人で2階のロフトでのんびりしていた時。
「修兄、ちょっといいですか」
香緒里ちゃんに呼ばれた。
何だろう。
ロフトから下に降りる。
月見野先輩、風遊美さん、香緒里ちゃん、詩織ちゃん、理奈ちゃん、沙知ちゃんの6人が懐中電灯やらタオルやら準備している。
「どうしたんだ?」
「これから秘境温泉の探検に行くので護衛をお願いしたいのですわ」
え、この辺に秘境温泉なんてあったっけ?
しかも全員の格好、それ島で着ている浴衣じゃないのか?
「修先輩もぶつぶつ言わずにユニフォームに着替えるのです」
詩織ちゃんの目線の先には、おそらく俺用と思われる浴衣と帯とタオルが用意されている。
「何なんだ?一体?」
「修兄、いいから早く着替えて下さい」
香緒里ちゃん、そんな理不尽な。
仕方ないので台所の影でちゃっちゃと着替える。
「で、何だ。そこのホテルの温泉でも行くのか?」
ロッジの目の前には温泉ホテルがあり、日帰り入浴が出来る。
「せっかく北海道に来たのにこんな風呂じゃ野性味が足りないのです。なので取っておきの温泉を紹介するのです」
ああ、それでか。
メンバーの顔ぶれに納得がいった。
温泉好きと興味本位組の集合体だ。
昨日の旅館は良い旅館だったのだが実はちょっとだけケチがついた。
ある客が一番いい露天風呂だという貸切風呂をキープしたまま返さなかったのだ。
なのでちょっと露天風呂ファン的には不満が残ったらしい。
その憂さ晴らしという面もあるのだろう。
「でも詩織の出身地って道東じゃなかったっけ」
「深く追求してはいけないのです」
これはきっと近くない処に行くつもりだな。
「着替えたら私から2メートル以内に来るです。なお足場は保証しないので濡れては不味い物は持ち込み禁止なのです」
と聞いて俺はスマホをテーブル上へと置く。
俺以外は皆出撃準備OKなようだ。
と言っても装備は懐中電灯と電池式ランタンとタオルで足は素足、服は浴衣だが。
「なお飛ぶ前に注意をひとつなのです。転んで水に浸かる方が足場を間違えて落ちるより安全なのです。あとタオルや懐中電灯は両手を離しても大丈夫なように帯にくくりつけておくのです。いいですか」
何か危なそうな注意事項を言っている。
一体何処へ連れて行く気なのだろうか。
「では、行くですよ」
その言葉と同時に、足底の感覚が消えて俺達は宙に浮いた。
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