第30章 高専最後の夏休み ~やり残した事は何ですか~

第370話 プログレス1号無事完成

 どう見ても登山用の軽金属製安物片手杖。

 でもこれこそが新地研究室の放つ第1号、新理論満載の杖『プログレス1号』だ。


 もっともこの杖をプログレスと呼んでいるのは研究室では俺だけ。

 他はそれぞれ

  ○ T0810123201701

  ○ 賢者の杖

  ○ エレメンタルスタッフ

  ○ 初號機

等々、まあ勝手に呼びたい名前で呼んでいる。


 実際研究室の面々によって同じ杖でも外見すら違う。

 例えば世田谷の『賢者の杖』は外側はいかにもなトネリコ製だし、高井戸の『初號機』はプラスチック製だ。


 ただし性能は全てほぼ同じ。

 要は俺と等々力と高井戸の理論を全て組み込んで、恩田が最適化して世田谷が調整した杖だ。


 なお基本設計型は俺や恩田が持っているのと同じ軽金属製。

 実験用にモジュール交換等もし易くなっている。

 勿論データロガーも設置済みだ。


 なお杖本体の設計等については既に魔技大のデータベースに登録済みで、あとは頑張って自分の理論部分の論文を書いて発表するだけ。

 困った事に俺が一番担当する論文の量が多い。


 でもまあ、論文は秋になってから皆で頑張ろうね、という事。

 なので夏休みはフリーだ。


 思ったより短い期間で思った以上に強力な杖が出来てしまった。

 やっぱりまあ、集まれば文殊の知恵という奴だ。

 俺の発想だけでは多分性能的には3分の2で、かつ制作に3倍手間と費用がかかる物になった筈。

 杖のテストも世田谷のおかげでえらい早さで進んだしな。


 例によって俺はこの杖のコピーを2本作っている。

 詩織ちゃん用の2号と風遊美さん用の3号だ。


 詩織ちゃんはこの杖でとうとう世界一周を成し遂げたし、風遊美さんも香港までなら行き来できるようになった。

 何気に部屋で使っている紅茶に円ではない表示の値札がついていたりするのにももう慣れた。


 それでもプリン貯蔵庫は相変わらず日本製の冷凍洋菓子で溢れている。

 詩織ちゃんによると、下手な本場の洋菓子より日本のものの方がよっぽど美味しいとの事だ。

 奈津希さんも本場でそう言っているらしい。


 なお世田谷が来た時や田奈先生と消費したプリン等は、あの後しっかりと補填させてもらった。

 プリンだけでは何なんでチーズスフレとか焼きショコラとかマドレーヌとか色々入れておいたのだが、好評だったようであっという間に全種類が消え失せた。


 実はこれらの冷凍洋菓子は等々力君の実家がある茨城県南の某ニュータウンの店のものだ。

 前に実家から送ってきたというのを食べてみたら美味しかったので、詩織ちゃんと直接現地に行って買いつけてきた。

 全国的に有名という訳ではないのだが、美味しい店というのは探せば色々あるものだ。


 さて、夏近くなると学生会で話題になるのは旅行だ。

 今年は総勢17名という大人数。

 関係ない世田谷までしっかり入っている。


 今年はお盆期間が終わってからの出発なので、集合は島ではなくそれぞれバラバラ。

 そして行き先は北海道だそうだ。


 前は北海道は詩織ちゃんが何か理由があるらしく避けていたが、今年は問題が解決したので大丈夫なのだそうだ。

 それに北海道になったしょうもない理由は他にもある。


 詩織ちゃんと風遊美さんが大人数連れでも平気で魔法移動できるようになってしまったので、東京近郊等のありがたみが一気に薄れてしまったのだ。

 何せ先週も買い出しツアーと称して東京方面に出かけていたしな。


 だから大人数移動が出来なくて、なおかつ魅力がある場所という事で北海道になったそうだ。

 あまりしょっちゅう魔法移動しているとそのうちバレそうなので、程々にしてもらいたいところである。

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