第365話 田奈先生の弁明
「家出って、隣の田奈家から」
「そうなのです。親父がわからず屋なので家出をするのです」
そう言われても実態として既にこっちの部屋にに入り浸りだしな。
「学校に行かないとか」
「学校はちゃんと出るですし学生会もするですよ」
それってほぼ何も変わらないんじゃないだろうか。
「なお親父以外のお母さんとかお姉さんには内緒なのです。あくまで親父対象なのです」
それって限りなく実害無いよね。
親バカの田奈先生には堪えるかもしれないけれどさ。
「なので当分宜しくなのです」
「一応了解はした」
実害どころか実態すらまるで変わらないとは思うがな。
ただそうなると、鬱陶しい相談が入りそうだな、
隣のむさい親父から。
面倒だが確認してやるか、奴には色々世話になってるし。
俺は風呂を出て自分の部屋へと向かう。
スマホを見ると案の定、いつもは来ないかつての担当教官殿からSNSが入っている。
どれどれ、顔を出してやるとするか。
手土産のプリンを2個持って隣の家を訪れる。
出てきたのは例の通り、むさい中年親父だ。
「どうしたんですか、家出なんて」
「詩織が危ない連中と連絡を取っていてな、注意したら家出された」
危ない連中ねえ。
特区には悲しいかな不良とかヤンキーとかは生息していない。
そんなんで気張ったら攻撃魔法でぶっ飛ばされるのが落ちだから。
ん、待てよ。
「危ない連中ってまさか、俺達じゃないですよね」
「ほう、自覚は一応あったのか。でも今回は違う。シュヴァルツヴァルト方面だ。アホゲル……ゲルハルト一派と何やら怪しげな連絡をしている」
EUの魔法特区でゲルハルトと言うと、聞き覚えがある名前だ。
アホゲルという呼び方なら散々聞いた事があるが、そういう名前だったか。
そしてその名前は確か。
「向こうの総合魔法学院の副長ですよね、ゲルハルト・アレクサンダー・カーン氏は」
「アホゲルで十分だ」
どうも正解だったらしい。
「それで連絡を取る事の何が悪いんですか」
なんやかんや言って田奈先生とアホゲル氏は仲は悪くなかった筈だ。
「大抵の事はこっちの特区で間に合うはずなのに、わざわざシュヴァルツヴァルドに連絡取っているんだぞ。正直こっちより向こうが適している事などろくな方面じゃない」
これは単なる嫉妬なのだろうか。
それとも何かの知識に基づくまっとうな考えなのだろうか。
俺には何とも判断がつかない。
「田奈先生には通信の秘密など通用しないと思っていましたけれど」
「本当に危険とかが迫っていない限り、そういう手段は個人的に好かん」
親でもこの辺の倫理意識をキープしている辺り、やっぱり田奈先生だなと思う。
「ここの特区しか知らない長津田に説明するとだな、日本の特区よりシュヴァルツヴァルドの方が優れているのは諜報分野とか安全管理分野位だ。何せ向こうは陸続きで常に脅威と直面している。
そしてアホゲルのメインの魔法は強烈かつ最悪な心理魔法だ。ついでに言うと奴の一派というのは秘密工作とか世論醸成とかまあ、表立って言えない作業が大得意な連中だ」
おいおい、確かにそれは危ない連中だな。
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