第29章 詩織ちゃんの遠出

第364話 詩織ちゃんの家出

 詩織ちゃんが短期間の予知魔法を手に入れた。

 風遊美さんも同じ魔法を手に入れた。

 更に多少の予知魔法すら闇魔法でねじ伏せる現役最強の黒魔女の参入。

 とどめに暇潰しの氷の女王とか同じく暇潰しの炎の戦闘隊長も参入。


 このあたりのせいで学生会内の模擬戦が酷い事になっているらしい。

 そしてその結果が、隣の樽湯でボロボロになってお湯漬けになっている。


 言うまでもなくルイスだ。

 アザだの傷だのは全部治療済みなのだがお疲れ感が半端ない。


 なお露天風呂の男女時間別制度はゴールデン・ウィーク半ばにして廃止されてしまった。


 俺やルイスやロビーの要望等では決して無い。

 入りたい時に自由に入るぞ文句あるか。

 そんな女性陣の横暴な意見に屈しただけである。

 ちなみにその意見を主張したのは、風遊美さんと香緒里ちゃんを除くほぼ全員。


 ここで俺は一言言いたい。

 君達には恥ずかしいという概念は無いのか!

 俺とルイスにはあるぞ!


 文句を言いたい奴は山ほどいる。

 でもその中で俺が今回の代表を選ぶとすれば奴だろう。

 世田谷!お前周りに染まりすぎ!


 という訳で裸女の集団を前に、今日も俺とルイスは樽湯に沈んでいる訳だ。


「僕もそろそろ別の魔法を開発しないと後が無さそうだ」

 隣の樽からルイスの沈痛な声。


「それでも風魔法の他に、炎系統や氷系統、雷までは使えるようになったんだろ」

「でもまだ常識の範囲内だ。今日程力不足を痛感した日は無い」


 まああんな怪物級の連中を相手にすればそうだろうけれど。


「学内では別に問題ないんだろ。あんなの攻撃魔法科にだってそうそういないだろうしさ」

「でも脅威が現存するとわかっている以上、対策を取れないようでは唯の負け犬だ」


 真剣に悩むな、あんな脅威世界にだってきっと数える程しか存在しないぞ。

 まあそう慰めてもルイスには無意味だろうけどさ。

 きっと明日も化物や怪物や怪獣や珍獣に痛めつけられるんだろうし。


 ただ正直言って、俺じゃ相談されても大した意見は出せない。

 攻撃魔法という物を知らなすぎるしさ。


「奈津季さんが詩織ちゃんの空間魔法に対応したのはどういう方法だったっけな」

「自分の周りにある程度の風を流しておいて、気流が乱れた瞬間に反対方向に移動しつつ攻撃するという方法だ。今でもある程度有効だが同時多発的に複数箇所から攻撃されると対処が遅れる」


「なら攻撃されると同時に反撃できるようなもので周りを囲めばどうだ。例えば自分自身を高電圧に帯電させておくとか付近の気圧を上げておくとか」

「防御はそれで何とかなるが、そうすると自発的に攻撃動作をするのが難しくなる。遠隔魔法に頼るだけでは……」


「突然ですがお邪魔するのですよ」

 いきなり俺とルイスの会話がぶった切られた。


 まあ誰の声かはもうわかっている。

 俺の樽湯に出現していないところを見ると、ルイスの樽湯に出現しているようだ。

 いつもながらルイスには苦労をかける。


「何だ詩織、何か用か?」

 ルイスからの無言のSOSを無視しつつ話を始める。


「ちょっと親父と喧嘩したので家出するのですよ。なので当分の間、衣食住よろしくというお願いなのです」


 ……何だって?

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